芥川也寸志 交響三章:伊福部の大和魂を越えて行け

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芥川也寸志 交響三章


僕は邦人作曲家の作品が大好きだ。
以前フィンランディアのところでも書いたが、邦人作曲家の作品の多くには、芸術性ではない「何か」があり、音楽を聴いてそれを最も感じることができるのが日本人だし、またそういう曲こそが真の名曲だと思っている。
今まで取り上げてきた邦人は、伊福部、松平、橋本だが、これには少なからず訳があって、それは芥川の交響三章を紹介するためだ。
芥川也寸志は、かの芥川龍之介の息子で、日本クラシック界きってのダンディな容姿、テレビも欲しがる巧みなトーク、二世は伊達じゃない文筆の上手さ、となんだかすごい人である。
この交響三章は、割と初期の作品である。
一度聴いただけで僕はこの作品の虜になり、さらに他の作曲家の曲を聴くにつれ、どんどんこの曲の良さが深まっていった。
芥川が傾倒していたストラヴィンスキーのような前衛的なソビエト音楽の持つ、強烈なリズムとオスティナート。
師・伊福部の音楽のような躍動する「大和魂」、師・橋本の持ち味である抒情的な「こころ」の旋律美。
芥川の中にあった芸術への思いは、それらを纏め上げるという形で表現される。


芸術は常に変化し続けている。
進歩ととるか、退廃ととるか、それは人それぞれだが、色々な形で過去を取り込んで、歴史を作っているのは確かだ。
多くの芸術家が自分の芸術を突き詰め、それを創り出して来ているし、その創り出されたものを模倣し、改変し、やがて超越していく。
自身の経験した音楽を、自身の芸術性をもって、新しい芸術として生みだすこと、それは進歩と思いたいものだ。
そう思わせてくれるのが、この芥川の交響三章だ。
1楽章のリズムはストラヴィンスキーを思わせる。だがそれはソビエトの空気ではない。聴衆は日本の、芥川の空気に包まれる。
2楽章の旋律は、日本人の心を打つ、哀愁と郷愁を湛えた和の調べ。
ファゴットで、オーボエで、弦楽で奏でられるその子守唄は、伊福部の影が見え隠れするものの、そんなことはどうでもよいような、圧倒的な美しさ。
僕はこの楽章を聴いていてふと、「あ、伊福部を越えたのかもしれない…」と思ったことがある。それは良し悪しの話ではなく、歴史の中の芸術の話だ。
そう思ったとき、3楽章を聴いてその感覚は確信に変わった。
執拗なオスティナート、魂を持って躍動し、邁進し、こころから歌う抒情的な旋律、その得も言われぬ美しさ!
それは他の何でもない、芥川が悩み、考え、構築した「芥川の芸術」には違いないだろう。
だが、そんな高尚な話ではないような気もした。もっともっと単純で、真っ直ぐな感覚。
涙が出るほど心に入り込んで鳴りやまない音楽だと思ったし、日本人でよかったとも思った。


この後芥川の音楽は、前衛に走ったりまた戻ったりと様変わりする。
「交響三章」は、他作曲家の影響や芥川初期の作品という位置づけからもわかるように、若かりし彼の芸術との格闘を表したものである。
いわゆる芸術性としては、彼の作品の中では未熟な方である。それは間違いない。後期の作品を聴けば、その洗練さがわかる。
だが、今のテーマはそこではない。
この音楽の持つ「何か」は、「芸術」といった些細な観念さえ凌駕するような力を携えている。
そう思うのは僕だけだろうか。少なくとも、僕が日本人でなければ、そうは思わなかっただろう。

芥川也寸志: オーケストラのためのラプソディ/ エローラ交響曲/ 交響三章芥川也寸志: オーケストラのためのラプソディ/ エローラ交響曲/ 交響三章
ニュージーランド交響楽団,芥川也寸志,湯浅卓雄

 

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