マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」:天からの愛、地上の愛

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マーラー:交響曲第8番《千人の交響曲》

マーラー 交響曲第8番 変ホ長調「千人の交響曲」


1910年の初演は、ミュンヘンの万博会場にある新祝祭音楽堂にて、マーラーの指揮で行われた。
オーケストラ146名、ソリスト8名、合唱団250名が2組、児童合唱350名の、合計1004人である。
その初演の際に興行主が付けた宣伝文句が「千人の交響曲」であり、マーラー自身はこの呼び方をあまり気に入っていなかったようだ。
しかし千人を超える演奏という、この音楽史的「珍事」は、マーラーの中では最も成功した初演ということになっている。そこにはこの曲が、マーラーの交響曲の中ではやはり異質なものであったということが関わっているようにも思える。
メンゲルベルクやワルター、クレンぺラー、R・シュトラウス、シェーンベルク、ウェーベルンらに加え、ストコフスキーやラフマニノフ、ヴォーン=ウィリアムズらの音楽家も初演に赴いた。
構成の大きさもさることながら、演奏時間も1時間半近くあり、とにかくスケールだけならほとんどの曲に劣らない交響曲であろう。
そのスケールの大きさは魅力であり、また同時にその演奏の困難さという弱みでもある。
とは言いつつも、この曲の人気は非常に高いので、音源も多いし、演奏機会も意外と多くある。
だが技術的に難しいことには変わらないので、完璧な名演というのは当然数少ない。外れくじも多いので、CDを購入する際は気をつけてほしい。
まあどの演奏がどうのこうのとケチを付けるのはこのブログの方針ではないので、そこは黙っておくとして、この曲の魅力を語ろうと思う。
第1部「来たれ、創造主なる聖霊よ」と第2部「ファウスト」より終景の二部構成である。
マーラーの交響曲第2番、3番、4番でもそうだが、この第8番も合唱が組み込まれている(歌詞はこちらへ)。


第1部はラテン語による聖霊降誕祭の讃歌が、第2部はドイツ語によるゲーテの「ファウスト」の最終場面が使われる。
冒頭はオルガン、低音楽器が重厚な響きを奏でると、すぐに「Veni, Veni, Creator Spiritus!(来たれ、創造主なる聖霊よ!)」と合唱が声高らかに響き渡る。
これが第1主題、始まりから聴衆の興奮度計は振りきれんばかりだ。
聴きどころのひとつ、第1ソプラノによる独唱は「Impre superna gratia…(いと高き処にある慈愛にて満たし給え…)」天からの愛を祈る、静かで敬虔な響きである。
そして展開部、まさに「我らが脆き肉体(Infirma nostri corporis)」を表すヴァイオリンやクラリネットのソロ、独唱が奏でられた後、一瞬の間をおいて合唱部隊が「Accende, accende lurnen sensibus(その光をもって我らの五感を高めたまえ)」と入ってくれば、再び興奮の渦に包まれる。
この「Accende…」の主題は、第1主題の面影を残した変形型とも言える音楽であり、また第2部でも用いられるものだ。僕はこの展開部が一番好きだ。
この主題にまた別の歌詞が当てられたり、別動隊が加わったりして、聖霊降誕祭は壮大に終わる。
第2部は大きく3つの部分に分けられる。ソリストにはそれぞれ役が振り分けられ、全体を通して「ファウスト」の浄化という思想が歌われる。
「Accende…」の主題がバス(瞑想の神父)の歌「Sind Liebesboten, sie verkünden,Was ewig schaffend uns umwallt.(なべて愛の使いなれば、我らを取り巻き、永遠に想像やめぬ力の所在を告知しているのだ)」に現れるところは、まさに天上の愛とファウストの魂の救済が繋がる部分だろう。
同様の主題が現れる児童合唱は天上で待ち受ける者の声である。ここも聴きどころだろう。
マリア、神父、天使たちが歌う第2部の「愛」は、「永遠に女性的なもの」という女性的な愛であり、天上へと召される魂の浄化である。
約1時間に渡るこの第2部は、オーケストラの壮大さに声楽の魅力、室内楽的な要素もありと、マーラーの良さ総決算と言ったところだ(しかし他の交響曲と比べて異質な感はいなめないが)。
全てが全て聴きどころと言ってもいいのだが、やはり最後の「神秘の合唱」が挙げられる。
地上から天上へと「Zieht uns hinan.(我々を高みへと引き上げる)」その様は、この壮大なスケールの曲に相応しいクライマックスだ。


地に愛を与える「聖霊」と、天へと導く「永遠に女性的なもの」。
それらを繋ぐ、すなわち第1部と第2部を繋ぐ「愛」を感じれば、神と文学が溶け込んだ音楽の素晴らしさに酔いしれるはずだ。
マーラーの、「宇宙を揺るがす」興奮と愛の音楽世界にどっぷりとひたる幸せは、何物にも代えがたい。

マーラー:交響曲第8番《千人の交響曲》 マーラー:交響曲第8番《千人の交響曲》
シカゴ交響楽団 ショルティ(サー・ゲオルグ),ハーパー(ヘザー),ポップ(ルチア),オジェー(アーリーン),ハーバー(イヴォンヌ),ミントン(イヴォンヌ),ワッツ(ヘレン),コロ(ルネ),マーラー,ショルティ(サー・ゲオルグ),シカゴ交響楽団

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