三善晃 三つの抒情


1.或風に寄せて 立原道造作詞
あまへのことでいっぱいだった 西風よ
たるんだ頃のうたいやまない 雨の昼に
とざした窓のうすあかりに
さびしい思いを嚙みながら
おぼえていた をののきも 顫へも
あれは見知らないものたちだ……
夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て
あれはもう たたまれて 心にかかっている
おまへのうたった とほい調べだ――
誰がそれを引き出すのだらう 誰が
それを忘れるのだらう……さうして
夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に
そそがれて来るうすやみのなかに
おまへは 西風よ
 みんななくしてしまった と
(暁と夕の詩より)


2.北の海 中原中也作詞
海にいるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、
あれは浪ばかり。
曇った北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪っているのです。
いつはてるとも知れない呪。
海にいるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、
あれは浪ばかり。


3.ふるさとの夜に寄す 立原道造作詞
やさしいひとらよ たづねるな!
――なにをおまへはして来たかと 私に
やすみなく忘れすてねばならない
そそぎこめ すべてを 夜に……
いまは 嘆きも 叫びも ささやきも
暗い碧の闇のなかに
私のためには 花となれ!
咲くやうに にほふやうに
この世の花のあるやうに
手を濡らした真白い雫の散るやうに――
忘れよ ひとよ……ただ! しばし!
とおくあれ 限り知らない悲しみよ
にくしみよ……
ああ帰ってきた 私の横たはるほとりには
花のみ 白く咲いてあれ!
幼かった日のやうに