スクリャービン:交響曲・管弦楽曲全集

スクリャービン 交響曲第4番「法悦の詩」作品54


クラシック音楽には、その曲ごとに様々な形容がされるが、まあこの曲について一言で言えば「エロい」ということになる。
エロいクラシックは沢山あるし、演奏の仕方を「エロい」と褒めたりすることもあるが、ともあれこれはクラシック音楽を代表するエロさと言ってよいだろう。
原題は Le poème de l’extase であり、日本語では上手いこと「法悦」という言葉を持ってきているが、もっとわかりやすく言えば「エクスタシーのポエム」である。
これはなかなか思い切った題名ではないだろうか。
「法悦」という言葉は、神の究極的なところに触れることで得られる喜びのことを示す宗教における専門用語でもあるのだが、これをスクリャービンの神秘主義への傾倒という視点から捉えて、この曲は神の真髄に関する喜びだと考える説もある。
だが、僕は絶対そんな高潔で神的な「法悦」ではなくて、どう考えてもセックスの快感を、スクリャービンがそれこそ自身の神秘主義・神秘和音にかこつけて上手く丸めこんだとしか思えない。
というのは、他のスクリャービンの神秘的な楽曲と比べると、これはどうにも「神聖さ」に欠け、その代わりに妙な「人間臭さ」が顔をちらつかせるからだ。
むしろ、その人間的なにおいが、神秘で完全なる世界をぶち壊している、或いはそれらが混じり合わずに存在している、と言ったところか。


20分程の単一楽章の交響曲で、盛り上がったり落ち着いたりを繰り返し、うねるように進行する。
トランペットで奏される主題は、特に盛り上がったところでその効力を発揮する。何かを突き破り、行き来するような甲高い金管の音は、否応なく興奮を高める。
弦楽器・木管楽器のトレモロの動き、優しい弦奏の中から急に飛び出す金管群、決壊するように打ち鳴らされるゴング…
聴けば聴くほど、どうしてこれが神秘の法悦だというのか。エクスタシーそのものではないか。何という表現力だろう。
僕の特にお気に入りは2箇所、優しい序奏が終わって、ふいに小さな興奮がやって来て、少しずつそれが高まりを見せるところと、あとは異常な盛り上がりを経て全休、クライマックスという流れ。
また、ところどころ奏でられる、神とは程遠い下品な人間らしさにも注目したい。
それこそ、この曲が人間のセックスのエクスタシーを描いている「肝」の部分であるのだから。
付けくわえておくが、決してこれはセックスの描写ではない。あくまでエクスタシーである。事前知識なしで聴くのは良いが、ここを間違って聴くのはさすがにいただけない。
しかしともかく、私は子どもではないという方には、ぜひ一度聴いて欲しい曲である。
この曲が表現するのは、神秘のベールを纏った、尊いほどに人の精神的な深みにある、ある欲望と快楽の極地だろう。

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スヴェトラーノフ(エフゲニ),アレキサンドロヴァ(オルガ),サルニコフ(アンドレイ),モスクワ放送合唱団,スクリャービン,エルマコヴァ(リュドミーラ),ロシア国立交響楽団,ズィコフ(ウラディーミル),イゾートフ(ピョートル),バールタ(アレシュ)

オクタヴィアレコード
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