サティ 薔薇十字教団のファンファーレ:抜群のプロポーション

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Satie: Complete Solo Piano Mus

サティ 薔薇十字教団のファンファーレ


宗教と音楽というのは密接なかかわりを持っており、当然ヨーロッパを中心としたクラシック音楽は、支配的であったキリスト教とのかかわりが大きい。
しかし、モーツァルトとフリーメイソンをはじめとし、もっとオカルトな宗教に没頭した作曲家も多くいる。サティもその一人である。
彼は一時期「薔薇十字団(Rosenkreuzer)」という秘密結社と関わりを持った。
厳密に言うと薔薇十字団ではないのだが、というかそもそも薔薇十字団は存在すら怪しいものであって、そこから派生した団体の方が多かったりする。
サティがモンマルトルの文学酒場「黒猫」でピアニストをしていた頃、彼はペラダンという神秘小説家と出会う。
ペラダンは「カトリック薔薇十字聖杯神殿教団」を設立した人物であり、サティはペラダンのためにいつくか作品を書いた。その1つが1892年に作られた「薔薇十字教団のためのファンファーレ」である。
後にサティはペラダンと決別しており、大してこの団体に思い入れがあるようには思えないのだが、それでもこれはサティの代表的な神秘音楽として現代に残る名曲だ。


ファンファーレという題名だが、吹奏によるパンパカパーンという明るいものではなく、むしろ非常に神秘的で頽廃的な、静かなピアノ曲である。
教団の歌、導師の歌、大修道士の歌の3つの楽章からなる。どれも小節線がなく、サティの開発した新しいスタイルが見て取れる。
多少順序などは変わるが、大体は移り変わる和音群とユニゾンの旋律が提示された後、和音と旋律が重なる、という構成の曲になっている。
美しい、というよりも「鬱くしい」とでも言いたくなるような、気だるい雰囲気だが、こういう曲は聴く者の精神状態によって取り様が大いに変化するタイプのものだ。
聴く者の精神状態を変化させるような曲も多いが、むしろこれは多少「鬱」な気分のときに聴くと、どんどん深みに嵌っていって、まあその人にとって良いかどうかはともかく、音楽としての魅力が最もはっきりと現れるように思う。
いかにしてこの曲は人の精神に入り込んでいくのか。そこにこの曲の神秘性があるのだ。
ダン・ブラウンの小説が好きな人なら喜ぶのだろうが、この曲もまた宗教的な謎が隠されている音楽と言っても良いだろう。
魅惑する神秘性は何なのか、和声と比率をヒントに謎解きを進めていくのも面白いかもしれない。もちろん、ただぼーっと聞いていても、「不思議ちゃん」なサティの音楽を楽しむことはできる。
ただそうやってぼーっと繰り返し聴くのも、この曲の奥深さを知るにはいいのかもしれない。
聴けば聴くほど深奥に入り込み、無限の混沌へと誘うこの作品は、薔薇十字団の教義に霊感を受けたサティの、神聖でかつ計算されたコードとプロポーションが鍵だ。

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