ブラームス:弦楽四重奏曲全集

ブラームス 弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 作品67


ブラームスがベートーヴェンを敬愛していたことは有名な事実だし、実際交響曲のエピソードはよく知られている。
「ベートーヴェンを越えなければ、交響曲を作る意味がない」と意気込んで作ったブラームスの交響曲第1番は、実に完成まで22年の歳月が費やされた。
ベートーヴェンの交響曲は、ハイドンやモーツァルトと異なり、交響曲という形式の音楽に、ある完成形を提出した。
どう異なるかというのはまあベートーヴェンのときに話題にするとして、ベートーヴェンがもう1つ、ハイドンやモーツァルトと異なり、その分野の音楽のある完成形を示した音楽形態が、弦楽四重奏である。
バルトークの弦楽四重奏曲が「ベートーヴェン以来の業績」などと言われるように、それまでの作曲家は、室内楽という音楽ジャンルの1つとして、弦楽四重奏曲を作曲したという捉え方もある。
ベートーヴェンは弦楽四重奏曲を16曲作り、これに比類するのはドヴォルザークの14曲、ヴィラ=ロボスの17曲、ミヨーの18曲、ショスタコーヴィチの15曲、など、弦楽四重奏は長い間(特にロマン派の時代)、そう量産されるものではなかった。
ブラームスはというと、実は20曲ほど書いてはいるのだが、結局完成されて世に出たものは3曲しかない。
これは、ブラームスが、交響曲のときと同じく、ベートーヴェンが残した偉大な弦楽四重奏曲を前にして、自分の作品が果たしてそれに並ぶものであるか、苦悩した結果なのである。


1875年の春から夏に作曲され、翌年初演された。ハイデルベルク近くのツィーゲルハウゼンで、友人たちとの交流を楽しみながら作ったからだろうか、3曲中最も快活で明るく、朗らかで牧歌的な雰囲気も漂う曲となった。
1楽章の活き活きとした感じは、旋律や拍子、強弱の変化の大きさに依るものだ。この楽章をどれほど元気よく演奏するかで、そのカルテットの性格がわかると言っても良いかもしれない。
2楽章はヴァイオリンが、3楽章はヴィオラ、チェロが、それぞれ活躍する。そのバランスも、ブラームスによって入念に考えつくされたものであることは言うまでも無い。
白眉は4楽章の変奏曲である。主題の圧倒的美しさは勿論、各変奏曲の面白み、最後の方の感情的な起伏のコントロールや壮大さ、これら全て、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に負けない、最高の出来栄えと言える。さすがは変奏曲の名手と言ったところだ。
ブラームスが悩みに悩み、選りすぐって世に出した作品が、全て偉大なるベートーヴェンに対抗できるものかどうかは、ちょっと怪しいところだが、少なくとも弦楽四重奏曲については、特にこの第3番については、楽聖と比肩すると言って問題ない傑作であろう。
じっくりと時間をかけて聴きこめば、古典派の威光に喘ぎながらも、自身の芸術を突き進むロマン派音楽の素晴らしさがぎゅっと濃縮されていることに気が付くはずである。
ブラームスらしさが本当によく感じられる珠玉の名曲だ。

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