ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」:音楽のあるところ

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ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 作品78「雨の歌」


この曲の録音を雨の日に聴く、という人は多いようだ。かく言う僕もその一人で、静かに雨が降る日に部屋でこの曲を聴く時間というのは、晴れの日には味わえないなんともしみじみとした魅力的な時間である。もちろん、土砂降りの日には避けたい。そんな曲じゃない。
「雨の歌」という題名はブラームスが付けたものではなく、この曲の3楽章の旋律がブラームスの歌曲「雨の歌」から取られているからそう呼ばれている。
こちらの歌曲の方も素晴らしいのだが、このヴァイオリン・ソナタの方が、本家の歌曲よりもずっと雨に相応しい音楽として認められているのは否定できない事実である。
1879年に完成した作品。ブラームスが初めてイタリアを訪れたのが1878年、イタリアで本当に楽しい時間を過ごしたようで、そういった明るさがこの曲の親しみやすさの所以だろう。
そしてただ親しみやすいだけでなく、この曲から感じられる孤独感や抒情性の深さは、円熟期を迎え始めたブラームス自身の思いや感情から来るものであろうし、親しみやすさと内省的な深さの併存が、この作品の特徴でありまた名曲と呼ぶに値する理由だ。
生演奏を聴ければもちろん最高だけれど、この曲では録音を聴くなら案外モノラル録音も良いものだ。
ステレオならシェリングとルービンシュタインのものが大好きだが、ドイツ屈指の名ヴァイオリニスト、ゲオルク・クーレンカンプとショルティの共演(1947年)や、世界最高峰のヴァイオリニスト、シモン・ゴールドベルクの録音(1953年)などの古いものでも、非常に味わい深い。
モノラルはちょっと苦手という人がいたら、上のような演奏を部屋でかけてみて欲しい。


親しみやすい訳は、この曲が非常にメロディックであるからというのもある。1楽章冒頭からのヴァイオリンのメロディーは、優しく温かく、身体を包み込むような旋律だ。
2楽章はぐっと抒情的になる。「ブラームスらしい渋み」を感じることが出来るのはこの楽章だろう。
3楽章で1,2楽章との関連付けが見られ、ひとつの作品として上手くまとめられている。ブラームスはこういうところで手を抜かない。彼の芸術家としての卓越性の一つであり、こじんまりとしているようで、実は内部にどこまでも続く広がりを持っている。
冷たい雨がしとしとと降っているとき、この音楽が部屋にあると、さっきまで嫌な気分だったのが途端に良い感じになる。
決して「雨の音楽」ではないのだ。優しく温かくと書いたが、むしろ雨とは相反するところにこの音楽はある。降りしきる雨の中、傘を差して歩くときの音楽としてはちょっと向いていないような。
部屋の中に優しい光と温もりを与える、暖炉の火のような音楽。

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