シべリウス 組曲「恋人」:静かな恋の情景

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Sibelius:Works for String Orch

シベリウス 組曲「恋人」 作品14


愛の夢に続き、似たようなジャンルで似たような経緯を持つ作品として、シベリウスの組曲「恋人」を取り上げる。
テーマは恋人たち、そしてリストの愛の夢と同じように、歌から器楽へと編曲されて、現在まで愛されている作品だ。
弦楽合奏版(弦楽、ティンパニ、トライアングル)が最もポピュラーな編成である。この曲もまた本当に愛を感じる作品だが、そこはシベリウス、じんわりと染み入る愛が実に彼の音楽らしい。
「恋するもの」「愛するものの小径」「こんばんは、さようなら」の3曲構成で、15分程の組曲。非常に聴き易く、シベリウスの珠玉の名曲というに相応しいだろう。
1893年、シベリウスは20代も終わりに近づいた頃だが、ヘルシンキ大学の男声合唱団のための作曲コンクールに応募した合唱曲が基になっている。
コンクールでは2位入賞、翌年には弦楽伴奏付きの合唱曲へ、1898年にはア・カペラの混声合唱へと編曲されている。
1911年、シベリウスは第4交響曲を作曲中、印象派の影響も強くなっている頃、今最も演奏される弦楽合奏版へと編曲され、翌年完成。シベリウス自身の指揮で初演された。
シベリウスの第4交響曲というと、なかなかに渋い作品だが、この組曲「恋人」はというと、もちろん華美な感じは一切ないが、印象派風の響きと弦楽の優しい旋律とが相まって、歌詞がないにもかかわらずかえって愛を感じうる作品になっていると言える。


あまりロマンチックに愛を押しつけてくるような感じではないところが、シベリウスの感性というか芸術性なのだろう。
第1曲の「恋するもの」、まあ恋人のことだが、心落ち着かないような和音から始まるものの、すぐに落ち着いた息の長い旋律が現れる。この不穏な感じと温かみある感じがどちらも顔を出して音楽が展開する様は、恋人を思う人の心そのものなのかもしれない。
私の恋する人が現れてくれたなら喜びにあふれるのに……という歌詞らしいが、喜びと不安の混在するような心情が、美しく表現されている音楽だ。
第2曲が実にシベリウスらしい、弦楽が小刻みに奏でる愛する者たちの歩み、僕なんかも憧れてしまうような、素敵な「愛するものの小径」の情景が浮かぶ。
シベリウス然りグリーグ然り、北欧の作曲家のこういった弦の扱いには感嘆せざるを得ない。
第3曲は「こんばんは、さようなら」という題名からも何となく予想されるように、少し寂しげな印象も受ける曲だ。しかし僕はこの曲が最も好きで、様々な描写が現れる音楽なのだが、それらひとつひとつの質が非常に高く、聴いていてどんどん場面を想像してしまうのだ。
時に悲しげな低弦や、楽しそうに見せかけつつも哀愁を帯びるヴァイオリンの旋律――これは愛の哀しみの音楽と言える。哀歌を口ずさんで消えるクライマックスからは、長い別れなのか、一晩の別れなのか、永遠の別れなのか、貴方は一体どう感じるだろうか。
これだけさんざん「愛」だの「恋」だの語ってはいるが、実際それが何かと言われると、まあよくわからない。
しかしそれでも「愛」を感じる音楽だと言いきれる。哲学よりも深く、芸術に愛を見出すことができるように思えてならない。

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