パーセル 聖セシリアの日のためのオード:ダイナミズムとバランス

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Purcell: Hail! Bright Cecilia

パーセル 聖セシリアの日のためのオード「めでたし、輝かしきセシリアよ!」Z.328


ことあるごとに僕はイギリスのクラシック音楽が好きだと語ってきたが、パーセルはそのイギリスクラシックの祖と言える17世紀の作曲家だ。
パーセルの生きた17世紀のイギリス史を概観すると、1642年に清教徒革命、指導者オリヴァー・クロムウェルは1649年にチャールズ1世を処刑し、王政が廃止。
クロムウェルは護国卿になったが、死後に地位を継承した子のリチャード・クロムウェルには政治力が無く辞任。
結局議会はチャールズ1世の子チャールズ2世に王権を返還し、1660年にステュアート朝が復活した。いわゆる王政復古の時代である。
1659年生まれのパーセルはまさしくそんな王政復古期を代表する作曲家で、パッヘルベルやコレッリ、少し遅れるがアルビノーニなどが同時代人だ。
パーセルは1695年に若くして亡くなる。この作品は1692年の作品で、パーセル晩年の傑作と言える。
聖セシリアとは音楽の守護聖女であり、絵画のモチーフなどにもよく使われ、グイド・レーニの描く弦楽器を持った聖セシリアの絵は僕も好きなもののひとつだ。
しかし、もともと古代キリスト教の殉教者であった聖セシリアは音楽とはあまり関係がなかったらしい。14世紀にオルガンとともに描かれるようになり、音楽との関係が出来はじめ、1584年、ローマに聖チェチーリア音楽院ができたとき、その守護聖人とされたことが聖セシリアと音楽のつながりを決定づけたようである。
1683年の11月22日にはじまり、以降この日は聖セシリアの祝日となっている。パーセルはそれ以前に聖セシリアのための曲をいくつか書いているが、今日紹介する1692年のオードが最も有名である。
この曲の素晴らしさは、大規模な音楽でありながら、非常に緻密に計算されたバランスの良さを併せ持っているところだ。
そのダイナミズムとバランスのおかげで、複雑にならずにとても明快でわかりやすい音楽になっている。


オーケストラにはトランペットとティンパニ、リコーダー、バス・フルートといった当時では珍しい楽器が含まれる。
さらにはソプラノ2人にカウンター・テナー2人、テノール、バス、合唱団と非常に大規模。
楽曲構成も序曲を含めて13曲。13という数字は当然注意すべきだ。歌詞はこちら
これほどの規模の編成で、それを決して複雑な印象にならないところがパーセルの卓越性だろう。用いている技法は多い。楽器の組み合わせも適材適所、非常に色彩豊かであり、また独奏・独唱が光るところ、重唱・合唱が効果的なところ、歌詞も繰り返しを用いて強く印象づけて……そうやって細かく細かく作り上げていくことで、聴いていて飽きない完全な調和とダイナミズムを生み出しているのだ。
これはもうおそらく、現代の作曲家では不可能である。真似ることはできるかもしれないが、完全な創作性をもってしてこの神々しい調和を生むことはできないと思う。そもそも「聖セシリアの日」の持つ意味も当時のほうがずっと強い。宗教的なものの影響は計り知れないものだ。
歌詞は明るいのだが、音楽は案外短調も多用され、メランコリックな雰囲気も十分感じられる。そこがパーセルらしさ(英国らしさ?)だろう。
第4曲Tis Natures’s Voiceのカウンター・テナーの旋律は、ことに装飾が非常に美しく、これだけでも聴く価値がある。
また、第8曲のWondrous Machine!では、グラウンドベースを用いた巧みな作曲技法を見ることができる。
トランペットとティンパニの勇壮な演奏はいかにもパーセルらしいし、後の音楽を予見させる。
こういったパーセルの技法はヘンデルに受け継がれ、バッハとはまたひと味違うバロックの魅力へと繋がるのだ。
しかし、英国クラシック好きの僕としては、やはりどうもパーセルをお気に入りの英国作曲家グループに入れるのをためらう。
パーセルの魅力は英国のお国柄というよりも、いっそう「時代」が反映されている音楽だ。
まあ、それも広い意味では英国らしさなのだが……。

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