モーツァルト : 弦楽四重奏曲「狩り」&ハイドン : 弦楽四重奏曲「皇帝」

モーツァルト 弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K.458「狩」


モーツァルトの弦楽四重奏曲の中で最もポピュラーな作品であるこの「狩」は、聴く者の気分を高めるような冒頭の主題が印象的な作品だ。
この主題は、1783年に作曲されてから多くの人を惹きつけ虜にしてきたのだろう。狩りの際に鳴らされるラッパの信号に聞こえることから、「狩」という愛称で親しまれている。
テレビか何かのBGMとしてもよく用いられる。クラシックをBGMにするとしたらこれを選びたくなる気持ちもわかるというものだ。
モーツァルトらしい軽快さと、その親しみやすいメロディー、そして、これもモーツァルトらしいと言えばそうなのだが、古典派らしい高雅な雰囲気、そして交響曲のようなスケールの大きな曲ではなく、弦楽四重奏という程よいスケールが、これが小洒落たモノの紹介に調度良いBGMとなる理由である。
また、ハイドン・セットと呼ばれる6曲の作品群に含まれる作品である。
このハイドン・セットは、モーツァルトの弦楽四重奏曲の中でも、非常に重要なものだ。
モーツァルトが敬愛するハイドンに献呈した6曲の弦楽四重奏曲は、ハイドンから大いに影響を受けたもので、第14番から第19番が該当する。
またハイドン・セットの他の曲も取り上げるつもりなので、そのときもう少し詳しくこの話をしたいと思うが、ここで取り上げたいテーマはハイドン・セット全体の話ではなく、この曲の持つとてつもない魅力――美の展開と完結について語りたい。


圧倒的な美しさを持つ作品だと思っていたが、あまり頭の良くない僕にはその「理由」となるものが何なのかわからなかった。その手がかりとなったのが、フランスの音楽学者シルヴェット・ミリヨのこの曲への言及「この作品の主たる長所は(中略)高潔きわまりないテーマの輪郭と、そのテーマを見事に展開していく作品の構造に認めるべきである」という文言だ。これにはなるほどと思った。
この曲の良さは、まずなんといってもメロディーである。始まった瞬間、主題と簡潔な伴奏でメロディーが浮き立って聞こえてくる。
この主題の高潔さはもちろん、高低の移り変わりや、いわゆるヴァリエーション的な展開をして、それがどれも心地よく耳に響くような構造をとっているのだ。
それは1楽章のみならず、全ての楽章でそういった展開する美がうかがえる。それにより、すべてが良い、この曲には退屈な楽章はない、と感じるのである。
そして、終楽章の意味の大きさ。なんとなく軽く終わる弦楽四重奏曲は数多くあり、それまではそれが一般的でもあったのだが、この展開性に着目すると、第1楽章と同じだけの重要性を持つ終楽章を置いている作品であることに気づくだろう。本当に、「最後だし徹底的にやるぞ!」というモーツァルトの美への気概のようなものが見える。
そして、アダージョ楽章である第3楽章がまた素晴らしい。ぐっと叙情的であり、重厚でもある。軽快さと反対に位置するような、重々しくも熱い感情を感じる。
そういった高潔でいて熱い美の展開と、均整を保った美の完結をもってして、この曲はモーツァルト随一のカルテットとして現代まで愛されてきたのである。これが理想的な美のあり方か、とさえ思わせる、名曲中の名曲だろう。

モーツァルト : 弦楽四重奏曲「狩り」&ハイドン : 弦楽四重奏曲「皇帝」 モーツァルト : 弦楽四重奏曲「狩り」&ハイドン : 弦楽四重奏曲「皇帝」
アルバン・ベルク四重奏団,モーツァルト,ハイドン

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