ヒナステラ ピアノ協奏曲第1番:南米の断末魔

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Piano Concertos 1 & 2

ヒナステラ ピアノ協奏曲第1番 作品28


「エスタンシア」で知られるアルゼンチンの作曲家ヒナステラは、ヴィラ=ロボスやチャベスらと並んで南米クラシックを語る上では欠かせない人物だ。あのピアソラもヒナステラから学んだことがある。
当然のことながら、僕も「エスタンシア」について記事を書こうと思っていたのだが、「ヒナステラ エスタンシア」でググってみたところ、「エスタンシアだけがヒナステラではない」というようなことを言っているものを見かけたので、確かにその通りだと思って、急遽曲を変更することにした。
そこで、やや知名度は劣るものの、ヒナステラの作品の中でも、クラシックファン以外からも一目置かれる(こともある)ピアノ協奏曲第1番を取り上げよう。
ヒナステラは幾分バルトーク的な部分がある作曲家であり、この曲はその最たるものと言える。特に3楽章はバルトークの暗の部分に近いものがあるし、終楽章は最もバルトーク的な、民族的でもありまた前衛技法的でもある音楽になっている。
エネルギッシュでエキサイティングでリズミカルだが、それはもはや暴力的であると言っても良い。
さらにこれは無調音楽だが、シュトックハウゼンやブーレーズと違い、複雑な表現言語のための無調であるというよりは、無調という範囲の中でどこまでも民主的に、人々に寄り添ってアプローチしようという意図のものである。
だから、それほど聞きにくいということもないだろう。好き嫌いは分かれると思うが、1961年作曲当時の南米からの叫びと思えば、これはおそろしくよくできた芸術だ。
イギリスのプログレッシブ・ロックバンドEL&Pは、『恐怖の頭脳改革』というアルバムで、この曲の第4楽章“トッカータ・コンチェルタータ”をアレンジした「トッカータ」を発表している。
編曲の許可を貰いに来たキーボーディストのキース・エマーソンに対して、ヒナステラはその出来映えを絶賛したというエピソードがある。確かに、かなり原曲に近い格好良い曲である。


4楽章の協奏曲で、演奏時間は30分ほど。いずれもバルトーク的だが、やはり彷彿とするのはバルトークのピアノ協奏曲第1番だ。特に両者の終楽章に共通する苛烈さは注目すべきものだ。
1楽章“カデンツァと変奏”もまた激烈に主張するカデンツァから始まる。左右の手で黒鍵白鍵を分けてアルペジオを奏するなど、興味深い技法も見られる。
2楽章“スケルツォ・アルシナンテ”は「幻惑するスケルツォ」とでも訳すことができるだろう。1楽章の反動のように、透明感のあるテクスチャーが楽しめる。しかし、そこにうっとりするような美はない。
甘いソロ・ヴィオラの音色に導かれて始まる3楽章“アダージッシモ”は緩徐楽章。すぐにオーケストラ全体が甘美な雰囲気をぶち壊しに来る。一瞬の気も抜けない緊張感。
そんな張り詰めた空気が遂に爆発するのが4楽章“トッカータ・コンチェルタータ”。聞けばすぐにヒナステラのリズムの天才的な扱い方に気づくだろうし、暴力的な悦びや快があふれている。打楽器的なピアノの用法(僕はあまり好きではないのだが)は目一杯活用され、ヨーロッパの伝統からはかけ離れているように聞こえる。
それが南米らしさのような気もするし、実は案外保守的なきらいもあるように感じるのだが、どうだろう。
全体を通してテンションが張りっぱなし、力が漲り続けている曲で、聞いていると疲れるかもしれない。そんな過度な緊張と暴発するエネルギーを体感するのも、これはこれで素晴らしい芸術体験に違いない。

Piano Concertos 1 & 2 Piano Concertos 1 & 2
Alberto Ginastera,Julio Malaval,Slovak Radio Symphony Orchestra,Dora De Marinis

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