レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」:イタリア礼賛研究序説3

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レスピーギ:ローマ三部作~ローマの松、ローマの噴水&ローマの祭り

レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」


「イタリア礼賛研究序説」と題して3度に分けてお送りしたエセーの最後は、ローマ三部作のうち最初に作曲され、この曲によってレスピーギは作曲家として売れっ子になったという、重要な作品、「ローマの噴水」である。
レスピーギが聖チェチーリア音楽院の作曲科教授であった頃、ボローニャからローマに移住した彼は、芸術の都で得た印象をもとに「ローマの噴水」を作曲した。1916年のことである。
この曲のスコアの冒頭には、序文としてレスピーギが説明を付している。「ローマの噴水の四つで、その特徴が周囲の風物と最もよく調和している時刻、あるいは眺める人にとってその美しさが、最も印象深くでる時刻に注目して受けた感情と幻想に、表現を与えようとした。」というものだ。
後2作の松と祭りは歴史絵巻的な要素が加わるが、噴水はむしろ、ローマの芸術的な美しい噴水の情景描写という、ドラマよりは絵画的な音楽になっている。
奥深さこそ後2作に劣るかもしれないが、抜群のオーケストレーションと、美そのものを捉えた描写は、この曲を三部作の中で最もわかりやすく、印象派音楽の良さが最高に楽しめる作品たらしめている。
何より、この曲は楽器の使用バランスが非常に良い。管弦打と、絶妙なバランスで用いられ、それによって他のオケ曲にないような色とりどりの表情を作り出している。
夜明けのジュリアの谷の噴水(La fontana di Valle Giulia all’alba)、朝のトリトンの噴水(La fontana del Tritone alla mattino)、真昼のトレヴィの泉(La fontana di Trevi al pomeriggio)、黄昏のメディチ荘の噴水(La fontana di Villa Medici al tramonto)の4つの部分からなる。


開始早々から、その透き通った空気感に、気持ちも晴れやかになることだろう。夜明けのジュリアの谷の噴水は、管楽器が多用され、長閑な雰囲気が醸し出される。動物たちも目覚め始めた頃か。
朝のトリトンの噴水は舞曲風。海神トリトンと泉の妖精ナイアデスたちが踊っているのだ。ホルンの音色は女神たちの吹くほら貝。楽しげで、神秘的な美しさ。朝の日差しを受けた女神たちの美しさよ!
勇壮で力強い音楽の、真昼のトレヴィの泉は、ローマで最も有名で大きな噴水をテーマにしたものである。金管楽器が華やかに鳴り響き、
ポセイドンがトリトンや女神たちを従えて凱旋する様子である。
最後、黄昏のメディチ荘の噴水は、これもまた美しいテクスチャ。夕焼けが水に反映する様を想像したい。本当に、管弦楽の隅から隅まで輝かせた音楽だ。
さて、「イタリアの素晴らしさ、イタリア芸術の素晴らしさがこの曲の言いたいことであって、ファシズムとは関係ない」というのは、やはりおかしいのではないかと、1,2で語った。それはファシズムがこの曲を利用し、レスピーギほかイタリア礼賛に関わる作曲家を優遇したのと同じ理屈である、と。
おそらく、ファシズムは悪であろう。しかし、ファシズムがローマ三部作という音楽の魅力に惹かれたことそのものの、一体どこに悪があろうか。政治思想など関係なく、良い曲を良いと思うこと、好きな音楽を好きと思うことに、罪はないと主張したい。
戦時中の音楽や軍歌を芸術として良いと思うことに罪はない。国威発揚、結構ではないか。もっと音楽を大切にしても、もっと愛してもいいじゃないか!
「ローマの噴水」は、ローマ三部作の中で、もっともわかりやすく、ローマの芸術の美を描いている作品だ。レスピーギのイタリア礼賛が問題なのではなく、イタリア礼賛の中にある美を受け取る人間の、判断の問題なのだ。良いと思うか、愛せるか、そこで判断してほしいのだ。
音楽が究極的に表しているのは、古代ローマ帝国の復興やイタリア礼賛ではない。それらはレスピーギの気概であり、音楽そのものではない。
究極的には、“噴水そのものの美”を表現しているのだ。
作曲家が生み出した音楽を受け取る演奏者・聴衆が、音楽からしかと芸術性を見い出さなければならない。美を見出さなければならない。歴史の暗の部分に惑わされてはならないのである。
イタリア人がレスピーギを演奏するように、日本人は、日本を作ってきた音楽を大切にすべきだ。歴史の暗闇から真の美を救わなければならない。音楽に正義を与えるのは、音楽から見出される美にほかならない。
レスピーギのイタリア礼賛という事実は、当然ながら真摯に受け止める必要がある。それはファシズムとベクトルが同じで、ファシズムに利用されたかもしれない。
だがそれはレスピーギにとっては二の次の問題で、彼にとっては芸術を突き詰めた結果がイタリア礼賛だった。
だから、必要以上にレスピーギとファシズムの関係を無かったことのように語ってはならないし、そのまた逆もしかり。イタリア礼賛は、レスピーギが“美”を追求した結果である。我々もまた、ひたすらに“美”を追求しなければならない。

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“レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」:イタリア礼賛研究序説3” への1件の返信

  1. まとめteみた.【レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」:イタリア礼賛研究序説3】

    レスピーギ:ローマ三部作(2007/11/07)トスカニーニ(アルトゥーロ)商品詳細を見るレスピーギ交響詩「ロー研究序説」と題して3度に分けてお送りしたエセーの最後は、ローマ三部作のうち最初に作曲され、この曲によってレスピーギは作曲家として売れっ子になったという、重要…

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