ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲、夜想曲、交響詩「海」 他

ドビュッシー 海―管弦楽のための3つの交響的素描


ドビュッシーの管弦楽曲の中で、また印象派音楽の中でも、これほど“代表的”と言える作品はほかにないと言えるほど、評価の高い作品である「海」。交響詩「海」とも呼ばれ、海の情景を描いた管弦楽曲だ。
僕もこのブログのプロフィールの欄で、好きな音楽に「ドビュッシーのピアノ曲」と挙げているように、ドビュッシーはピアノ作品が非常に魅力的で、ピアノ作品は聴くけど他はよく知らないという人が意外と多い。また、ドビュッシーのピアノ曲は可憐な美しさが特徴の曲が多いのだが、管弦楽曲となると、あまり小さくて可愛らしい雰囲気は見られない。ピアノから入った人は、ドビュッシーのピアノ以外の作品に面食らうことがままあるのだ。
しかし、ピアノ曲である前奏曲集にも、管弦楽曲と雰囲気の近い作品もあるし、やはりドビュッシー好きなら、何度も聴くうちに管弦楽曲もきっと好きになるはずだ。
一見とっつきにくい音楽かもしれない。明確なメロディーはない。1905年の初演の際は、あまり評判は芳しくなかったようだ。
だが、この作品の良さがきちんと評価され、現代では印象派を代表する音楽になっているのだから、さすがドビュッシーである。
海がテーマの音楽は多くあるが、海の情景描写としては、表情の繊細さ、多様さ、そして音楽として人の魂を揺さぶる何かの存在、そういったものを鑑みるに、これ以上に完成度の高い音楽はほかにないかもしれない。
3つの交響的素描とあり、「海の夜明けから真昼まで」、「波の戯れ」、「風と海との対話」の3つの部分からなる。演奏時間は20分強。
ハープやグロッケンシュピール、トライアングルなどの音色が特徴的に用いられ、光を描いた、まさしく絵画的作品である。
なにより、絵画的でありながら、この曲は絵画と対照をなす、いわゆる「時間芸術」の一極地でもあることが、名曲たる所以だと僕は思う。


レスピーギの「ローマの噴水」もそうだが、これも時間経過が描かれている作品。
「時間芸術」と「空間芸術」の定義を明確にしたのは『ラオコオン』の著者であるドイツのレッシングという美学者だが、彼によると行為を対象にしてその時間経過を表現する「時間芸術」(文学や音楽など)は、物体を対象にしてその決定的瞬間を表現する「空間芸術」(絵画や彫刻など)と区別されるという。
音楽は一度演奏すると止められないという意味でも、非常に時間と関わりの大きい芸術であることは、多くの人が感じるところであろう。これはまた文学とも違うものだ。
リアルタイムで動く時間の中で、芸術はさらに時間の経過を表現する。クラシックにはこういうものが多くあるが、二重の意味で時間的な芸術である。
まず「海の夜明けから真昼まで」、自然界に夜明けの瞬間があるのか僕にはよくわからないが、海の時間経過に着目して聴いて欲しい。ここでは全ての音に意図・意味があるのだ。
「波の戯れ」も、海の美しい表情のひとつ。これは絵画的な面が強いとも言える。今度は海という空間が生み出す美しい景色に目を奪われることになる。
そして「風と海との対話」。対話(Dialogue)とあるように、これは性格的・人格的な音楽でもあるのだ。ここが、単なる描写で終わらない、最高峰の作曲家の才能である。風によって動く海、波が起こす空気のざわめき、徐々に「波風が立っていく」クライマックスは、本当に心を動かすものだ。
最後に、ドビュッシーの名言「音楽の本質は形式にあるのではなく、色とリズムを持った時間にある」という言葉を紹介しておこう。
「空間芸術」以上に、空間を捉えて見事に表現できている。すごいとしか言いようがない。これは時間芸術の限界を越えた、ドビュッシー音楽の真骨頂だ。
20世紀音楽を代表する作品と讃えられるのも当然だと言えよう。

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