シマノフスキ 弦楽四重奏曲第2番:歪な愛の形

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シマノフスキ:弦楽四重奏曲第1番・第2番/ウエーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章

シマノフスキ 弦楽四重奏曲第2番 作品56


ポーランドの作曲家シマノフスキは、分類すれば後期ロマン派なのだろうが、ネオロマンティシズム風の音楽だけでなく、モダニズムに近いような変わった響きを用いる、実に面白い作風の作曲家である。
決してモダニズム寄りではないのだが、シマノフスキ独特の音はなんとも言いがたい魅力がある。そして、ポーランドの民族音楽からの影響もまた、シマノフスキの音楽の魅力をなす根底にあるだろう。
ポーランドの民族音楽と言っても、ショパンのそれとはまた違う。そもそも、地方が違う。ショパンは北部だが、シマノフスキは南部のタトラ山地の農民たちの音楽に着目した。僕もそんなに詳しいわけではないが、タトラ地方のグラル人の民謡は、ほのぼのしつつもちょっと独特な趣きがあり、なかなか楽しいものだ。
今回取り上げる弦楽四重奏曲第2番も、タトラで作られた作品だ。もともとこの曲は、フィラデルフィア音楽財団のコンクールへの参加作品だった。入賞したのはバルトークとカゼッラで、シマノフスキは入賞を逃したのだが、まさしくバルトークのごとく、民謡的な素材を、動機や旋律だけ活かして、かなり自由に処理した音楽になっている。
この曲が作られたのは1927年だが、シマノフスキはここに至るまでにかなり波乱の人生を過ごしてきている。過激派の政治集団に家を襲撃されたり、第一次世界大戦、ポーランドの独立といった大事件を経て、一時は作曲する意欲を失いそうになっていたシマノフスキだが、こうした事態を経験したことによってシマノフスキの作風はいっそう堅固なものに変化する。


その堅固な作風の根底にあるのが、独立国となったポーランドへの愛国心であり、ポーランドの民族音楽だった。
ほのぼのした長閑な民謡と、それを支える新しい音楽技法が、晩年のシマノフスキ音楽の独特な魅力の正体であろう。
その堅固たる音楽技法とは、ひとことで言うと新古典主義である。
第一次大戦前は名家であったシマノフスキ一家は、一家襲撃や戦争によって、金銭的にも精神的にも苦しんでいた。ワルシャワ音楽院で教鞭をとったり、コンサートを開催したりして収入を得るという、名家のお坊っちゃまなら本来悩むようなことではないことに苦しんでいたシマノフスキは、そういった困窮した精神状態から新古典を探る道を見出したのだろう。そして、ストラヴィンスキーのような、民謡とそのリズムの力を得るということ。こうした出るべくして出た要素が、この弦楽四重奏曲第2番には凝縮されている。
また、この曲の作曲以降、シマノフスキは徐々に心身ともに弱っていってしまった。そういう意味でも、この曲はひとつの時代的な名曲と言える。
3つの楽章からなり、20分ほどの長さ。第1楽章はModerato dolce e tranquilloとあり、まるでドビュッシーのような、かすかなトレモロの中で響く静かな高音と低音のユニゾン旋律から始まる。非常に柔らかいが、その柔らかさが緊張感を生むのだ。4つの楽器の中で、いかに感情表現を交代していくかという点が面白い。表現主義的ともいわれるゆえんもはっきりするだろう。
2楽章Vivace scherzandoは、全楽器が重音から始まる。音量も暴力的だ。バルトークの中期弦楽四重奏曲のように、リズムの強さと弦それぞれの持つカラーを押し出している。タトラの民族音楽が使われているが、バルトークほどはっきりと民謡風を出さない。
3楽章Lentoも民族音楽に基づく主題。しかしこれは随分と新古典的だ。1楽章のような穏やかな雰囲気に立ち返ると、ゆったりと、大きく優雅なフーガをなす。しかし、感情を高め、速度を高め、ついにはなんとも抗いがたい終結へと向かう。
少し歪な愛の形だが、ポーランドに対する愛を感じることができる。熱狂的な愛だ。この曲で、この曲の終わりで、それは燃え尽きたのかもしれない。

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“シマノフスキ 弦楽四重奏曲第2番:歪な愛の形” への1件の返信

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