フィンジ エクローグ~ピアノと弦楽のための:英国の田園について

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フィンジ:チェロ協奏曲Op.40/ピアノと弦楽のためのエクローグOp.10/大幻想曲とトッカータ Op.38

フィンジ エクローグ~ピアノと弦楽のための 作品10


今年はドビュッシーやフランセがアニバーサリーなだけあって、フランス音楽で盛り上がるものだと思っていたが、そういえばロンドンでオリンピックがあるのだった。このロンドン・フィーバーに乗って、英国クラシックは各方面でプッシュされている。ファンとしては嬉しい限りだ。
僕のイチオシはなんといっても我が愛すべきレイフ・ヴォーン=ウィリアムズなのだが、実際のところ、それほど高い人気があるようには思えない。だから最近記事をいくつか書いたのだけれども、もう一人、ここでジェラルド・フィンジという作曲家を取り上げたい。
エルガーは英国クラシックの顔であり、誰もが知っている作曲家である。ではエルガーの次は? パーセルやヘンデルは一旦置いておくとして、ちょっとクラシックに詳しくなると、エルガーの次に手が伸びるのは、ディーリアスであり、そしてこのフィンジである。両方ともとても聴きやすい。
ディーリアスは英国クラシック界の異端児であるが、フィンジはむしろエルガーやヴォーン=ウィリアムズらの伝統を正統に受け継いだ作曲家である。1901年ロンドンに生まれ、園芸家としても活動していたフィンジは、歌曲や合唱曲などを多く残した。
今回紹介するフィンジのエクローグは、ピアノと弦楽のための作品であり、もともとピアノ協奏曲の緩徐楽章になるはずだったものを作り直して独立させたものだ。ピアノ協奏曲の緩徐楽章は、ショパンでもベートーヴェンでもラフマニノフでも、本当に美しいものが多く、僕もお気に入りのものが多いが、フィンジもそんな有名作曲家のものに引けをとらない。
1920年代後半に着手した曲だが、フィンジのの死後まで出版・演奏されることはなかった。
10分ほどの長さ。録音も結構多くあるし、英国特集でCDも手に取りやすいかもしれない。この曲の他にクラリネット協奏曲も有名である。RVW推しの僕としては少し悔しいのも否めないのだが、せっかくの機会なので、フィンジの世界を多くの人たちに味わってほしいと思う。


エクローグとは「田園詩」、「牧歌」といった意味である。園芸家というパーソナリティとついつい結びつけてしまう。実際には関係ないだろうし、案外田園詩というものは、そもそも田園そのものとあまり関わりがないような曲も多いだけに、もっと感情を歌った曲であると解釈されるべきだろう。
しかし、僕は英国クラシックが表す田園というものには少し特別な思いがある。イギリスに行ったときに、バスの車窓から見た、夕暮れのコッツウォルズの田園風景の美しさ。英国音楽の田園詩の根源的なものに触れた気がした。
日本の田園というとやはり「田」が重要になると思うのだが、エクローグとは「このなだらかな丘陵のこの感じか!」と、感動したものだ。
優しいピアノのメロディーから始まり、時間の流れがゆっくりになって、聴衆は田園の情景へと誘われる。
何度か転調・展開を繰り返すと、感情の高ぶる場面が現れる。決して爆発はしない。上品であり、気品を失わないままだ。
穏やかな感情の変化と起伏。それは時間の前後で微妙に異なり、美しさを保ったまま、その姿や色香を変える。
ピアノと弦楽はゆっくりと対話する。風と草木だろうか。人と丘、人の心と大地や大空だろうか。苦しみや嘆きが奥底にあるのかもしれないし、それをぐっと堪えているのかもしれない。そして凛として、自然と対峙し対話するのだ。
弦楽で初めの主題が再現される部分も感動を覚える。ラストは再びピアノのソロ。この小さな循環こそ、自然描写というものだろう。ルーセルの第1交響曲を聴いたときと同じような感覚だ。
日本の田園風景は、田んぼを眺めた先に必ずと言っていいほど山がそびえているが、英国はどこまでも丘陵と空だった。この自然感覚は、それと対峙し、また芸術として表現する人間にとって、循環性や永遠の美しさというものを生じさせるのだろう。どこまでも続いているような、10分たらずの、最高に美しい田園詩。

フィンジ:チェロ協奏曲Op.40/ピアノと弦楽のためのエクローグOp.10/大幻想曲とトッカータ Op.38 フィンジ:チェロ協奏曲Op.40/ピアノと弦楽のためのエクローグOp.10/大幻想曲とトッカータ Op.38
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