愛の挨拶

エルガー 愛の挨拶 作品12


ロンドン五輪も終わり、英国ブームも落ち着いてきた頃かもしれないが、ここで英国クラシックを代表するようなエルガーの超有名曲を取り上げよう。
誰もが聞いたことのある旋律、この美しくロマンチックな旋律は、今までさんざん「英国の音楽の良さはその渋さ」などと語っていた僕が間違っているかのような、渋みも苦味もない、純粋な愛の美しさを湛えている。
1888年にキャロライン・アリス・ロバーツとの婚約記念に贈った曲で、単純に言えばラブレターである。どうりでロマンチックなわけだ。
こういう雰囲気の曲は小品に多く、その他の曲はもっとエルガーらしい渋さがある。別にエルガー自身が、こういう聴きやすい、大衆迎合的な音楽を嫌っていたということもないが、作曲家として売れないという時期が続いており、こうした小品が彼の交響曲や協奏曲、後期の室内楽作品などとは全く異なった色を見せるのも自然かもしれない。
売れるための曲ではないにせよ、エニグマで成功を収め、世界に名が知れ渡る10年ほど前のことである。
なにより、エルガーが世界的な作曲家となるには、ピアノの教え子であり恋人・妻であり、そしてこの曲のプレゼント相手である、キャロライン・アリス・ロバーツの多大なる協力が必要不可欠だったことも言っておきたい。そう、まさに運命なのだ。
ピアノ独奏版のほか、ピアノとヴァイオリン、管弦楽など、色々な編成がある。エルガー自身の編曲のほかに、演奏者の都合で様々にアレンジされて、愛奏されている。5分もない短い曲で、珠玉の名曲とはこのことである。


原題は出版社の都合でフランス語のSalut d’amour(愛の挨拶)になっているが、むしろその方が似合うようなサロン音楽的な香りもする。
しかし、そこはエルガー、ヴィクトリア趣味の気品もしっかりと備えているし、それでいて、家庭的な温もりも感じる。愛とはこれ然り多くのものを包含するのだ。
非常に多くの演奏があり、楽器も様々。王道を聴くならヴァイオリンとピアノだろうが、自分にぴったりあった演奏を見つけるのもまた楽しい。
僕が個人的にオススメするとしたら、男性ならチェロとピアノ版、女性ならヴァイオリンとピアノ版というのがいいかもしれないなあ、と思う。低音による旋律、高音による旋律は、それぞれ男性・女性の声で愛の歌を歌っているかのようだ。あまり声楽版は耳にすることがないからというのも理由だが。
もちろん、自分のお気に入りの楽器があればそれで聴くのもいい。大概は揃っているはずだ。自分の好きな管楽器とピアノ伴奏というのもまた美しいものだ。
多くの演奏は、とことんロマンチックに、コッテコテに演奏している。ルバートを利かせて、大げさな感情表現で、ちょっと臭いくらいがちょうどいい。
とはいえ、出だしの有名なメロディーなんか、楽譜を見ればヴァイオリンのダイナミクスはpだし、dolceとも書かれている。ピアノ伴奏はpppまで出てくるし、dolcissimoなんて指示もある。dolce(ドルチェ)は日本のレストランでも普通に目にするようになったが、この曲は基本、甘いデザートのような音楽なのだ。
それでも、そういうブリっ子みたいな音楽はちょっと嫌だという人もいるだろうし、愛の贈り物は人それぞれだろう。自分に一番フィットする演奏者を見つけられたら、またとない幸せだ。そうして、どっぷりと感情移入して聴く。愛と音楽と、なんと幸福な時間。

愛の挨拶 愛の挨拶
新倉瞳

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