フランク 弦楽四重奏曲 ニ長調:楽聖にならいて

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String Quartet in E Minor / Styring Quartet

フランク 弦楽四重奏曲 ニ長調


なんとこのブログ初登場となるセザール・フランクは、フランスで活躍し、ダンディ、ショーソン、デュパルクらの師匠にあたるベルギー生まれの作曲家だ。ワーグナーやリストから影響を受けた人物で、循環形式を多用した作風で知られる。
この系統の作曲家は、いわゆる(ドイツ)ロマン派音楽の流れを汲んでおり、特にワーグナーからの影響は計り知れない。ライトモティーフは循環形式となり、転調の多さや半音階的進行などが室内楽に取り入れられた。フランクについては、そこに「バッハ研究」という大きな要素が加わる。
バッハ以降のオルガン音楽を語るならフランクを抜きには不可能だし、対位法の使い方にもフランクは非常に長けているのだ。
さらに、弦楽四重奏曲というジャンルについて言えば、フランクは晩年、ベートーヴェンやブラームス、シューベルト弦楽四重奏曲を熱心に勉強したことが挙げられる。
特にベートーヴェンの後期作品は、この曲に大いに関わっている。情熱的な主題の創造性と、音楽の構造的な面における革新性を、後期になってどんどん統合して突き詰めていったベートーヴェンの音楽に、フランクは見出すものがあったのだろう。
こうやって書くと字面は格好いいが、簡単に言うと「リスナー受け」よりも「芸術における思想の表現」に意識が移っていったということである。こうしたベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の深遠さは、フランクの弦楽四重奏曲がとっつきにくく感じられる、大本の原因だろう。
フランクの室内楽には、傑作として名高いヴァイオリン・ソナタ、それに次ぐ人気のピアノ五重奏曲などがある。それらについてはウェブ上でもよく語られる一方、弦楽四重奏曲になるとあまり見当たらない。
確かに先に挙げた2曲はフランクの傑作であり、僕もいずれ取り上げようと思っている。でも僕は「弦楽四重奏」という編成が大好きだし、何より、これは弦楽四重奏曲の大家ベートーヴェンを意識し、自身の芸術を極めようしているという点で、フランクの並々ならぬ音楽への思いが込められていると感じるのだ。そこが本当に愛おしいし、音楽にその思いがあふれている。


音楽は、跳躍のある下降音形から始まり、主題のこの音形がさらに高音に移行する。序奏として導いていくようなセグエ・運動性、そして、厚みのある伴奏によっていっそう増す旋律のインパクト。まずは冒頭で本当に心惹かれる。僕はそうだった。
特に主題については、何度も改訂を重ねて今の形になったとのことだ。またフランクらしい、福音的な音楽と煩雑な現世的音楽の対比が、この1楽章では表されている。
2楽章はスケルツォ楽章。フランス的な洒脱さも感じさせる。しかし、その構成は古典的だ。重みを増した3楽章ラルゲットは、息の長い旋律が静かな幸福を讃えているように響き渡る。
そして、全ての要素を纏め上げるような4楽章。ここでは循環形式が彩りを加える。複雑さもあるが、それは豊かな創造性の成せる技。湧き上がる数多くの旋律が、テクスチャやダイナミクスを変えて現れる様は、言いたいことを言い尽くしたいという気持ちの表れかもしれない。
フランクの作曲活動は、室内楽に始まり、室内楽に終わると言っても良い。フランツ・リストも感心したという初期の作品ピアノ三重奏曲から、晩年のピアノ五重奏曲、そしてこの弦楽四重奏曲。
フランクは生前あまり評価されることがなく、親しみやすくて現代でも人気の高い交響曲やピアノ五重奏曲でさえ、初演の際には不評だった。しかし、現代ではやや晦渋でとっつきにくいとされるこの弦楽四重奏曲だけは、初演後、スタンディングオベーションの聴衆による大歓声に包まれ、フランクは何度もカーテンコールを求められたそうだ。
フランクは決してこの聴衆の反応を求めて作曲したのではなかったと考えるのが当然だろう。何がそれほどに当時の聴衆を(そして僕自身を)興奮させたのだろうか。
それはきっと、この「弦楽四重奏曲」という形でしか成し得なかった、最晩年のフランクの表現したいことが、彼の芸術への思いが、すべて吐き出されて語られているからかもしれない。
フランクの場合、その旋律の持つ意味とは、親しみやすさとは無関係だったのだろう。こうした彼の、本心の語りを、弦楽四重奏という手段で体現させたのは、まさしくベートーヴェンである。
楽聖ベートーヴェンの語り方・表現の仕方を得たフランクの、すべてを語る「遺書」のような作品。

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Dante Quartet,César Franck,Gabriel Fauré

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