Mozart: The String Quartets / Amadeus Quartet


モーツァルト 弦楽四重奏曲第8番 ヘ長調 K.168


天才モーツァルトが17歳のときの作品であり、若干17歳にしてこのクオリティというところも驚きだが、それ以上に、モーツァルトが芸術的な高みを目指して模索したその轍のようなものが見えるという点で、実に興味深い、驚嘆すべき作品と言える。
モーツァルトの弦楽四重奏曲というと、「狩」などを含む「ハイドン・セット」の6曲や後期の傑作「プロシャ王」の3曲などが名高いが、初期の「ミラノ四重奏曲」の6曲や「ウィーン四重奏曲」の6曲も、どれも素晴らしいものばかりだ。
第8番は「ウィーン四重奏曲」の最初の曲であり、モーツァルトがウィーンに滞在し、ハイドンの弦楽四重奏曲作品17や太陽四重奏曲を知って、それらにインスピレーションを受けて作った曲である。ウィーン四重奏曲はどれもハイドンの影響が大きいのだが、特に第8番は、その1曲目ともあって、特にその影響を見て取れる。
モーツァルトにとっても、ハイドンは先んずる偉大な作曲家であり、尊敬する人物であった。また、ウィーンという地は、18世紀終わりから19世紀初めまで、非常に弦楽四重奏が愛されていた。そういう良き風土に恵まれた古典派の弦楽四重奏曲はどれも魅力的で、僕は大好きで大好きで仕方ないんだけれども、どの曲に対してもそう同じことばかり話す訳にもいかないので、こうして少し違う話題ができる曲を選んでみたのだ。
音楽構造の精密さという点では、まだ後期の作品や、ベートーヴェン以降の作品には及ばないものの、ハイドンの音楽に触れた新鮮な感動が音楽に満ち満ちている。実に気持ちのよい音楽だ。


「ミラノ四重奏曲」では3楽章構成だったが、この第8番からは4楽章構成になっている。
1楽章はアレグロ、フォルテとピアノの対比が鮮やかで、活き活きとした風を感じる。これのコントラストの表現はハイドンの影響だが、やはり旋律にモーツァルトらしさを感じるのは当然のこと。
2楽章アンダンテ、この主題はハイドンの太陽四重奏の第35番(作品20-5)のフーガからそのまんま借りている。モーツァルトのハイドンへの敬意を汲み取ってもらいたい。
3楽章メヌエットでも、ハイドンの機知に富む楽想を、モーツァルトは巧く真似ようと試みている。
4楽章アレグロはフーガで、終楽章にフーガを配置するもハイドン由来のもの。
とまあ、ことごとくハイドンから学んだものをここで発表しようとしているのだ。特に注目すべきは、対位法が多く用いられるようになったところだろう。ミラノ四重奏曲と比較してみると明らかだ。構造の精密さという点に触れたが、この曲を契機に、モーツァルトは弦楽四重奏曲を構造的に進化させたと言える。
モーツァルトは、この後のウィーン四重奏曲やハイドン・セット、プロシャ王セットなどで、4人の奏者のバランスや楽章ごとのバランスなど、さらに弦楽四重奏曲の構造を確固たるものにしていく。ハイドンが太陽四重奏曲より後に作曲した第1・第2アポーニー四重奏曲(ザロモン四重奏曲)などは、第一ヴァイオリンが圧倒的に活躍するといったところで、モーツァルトとは進化の方向性が異なる。
「弦楽四重奏は四人の賢者の対話である」という言葉を思うと、弦楽四重奏曲の歴史のメインストリームを生み出したのは、ハイドンからその良さを吸収し発展させた、モーツァルトその人なのだ。
この曲は、モーツァルトの努力の軌跡であり、また弦楽四重奏の進化の歴史の中で、記念すべき一つのスタート地点となる音楽と言ってもいいだろう。

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Mozart,Amadeus Quartet

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