バーンスタイン最後の演奏会


ブリテン 4つの海の間奏曲 作品33a


今年はブリテン生誕100周年という記念すべき年であり、あちらこちらでブリテンの音楽を耳にする……なんてことはないけれども、例年よりは盛り上がりを見せてくれているはずだ。
特に、ロンドン交響楽団が来日してブリテンの作品を取り上げてくれたことは、英国音楽ファンの僕にとって嬉しい限り。演目は「4つの海の間奏曲」という作品であり、ブリテンの傑作オペラから抜粋された間奏曲集である。
その傑作オペラとは『ピーター・グライムズ』という作品のことで、イギリスのモダンオペラの中では最も成功した作品と言われる。詩人ジョージ・クラブの詩に感銘を受けたブリテンが、彼の盟友でバリトン歌手のピーター・ピアーズと共に作り上げたこのオペラは、ブリテンの最も重要な作品のひとつである。このオペラについては、また機会を設けて語りたいと思う。この作品は、テーマもストーリーも深いものがあり、ちょっと話が長くなりそうなのだ。
そういう意味では、オペラの中から間奏曲だけ抜き出したものとなると、内容的な深みはあまり望めない。それでも、同じ英国の作曲家アイアランドは、ブリテンはこの間奏曲で尋常でない芸術的成果を勝ち得てたのだと大絶賛している。この間奏曲は、聴衆の心理を揺り動かし、方向づけるようなある種の「キュー」の役目を果たしていて、その的確さや効果はもはや悪魔的なものだとまで語っている。
第1曲「夜明け」(Dawn)は第1幕第1場への間奏曲、第2曲「日曜の朝」(Sunday Morning)は第2幕第1場への間奏曲、第3曲「月光」(Moonlight)は第3幕第1場への間奏曲、第4曲「嵐」(Storm)は第1幕第2場への間奏曲。
アイアランドがそこまで賞賛する理由はオペラそのものを見ないと実感できないと思うが、ブリテンの音楽的なセンスや大体の作風を俯瞰することができる曲である。


オペラに間奏曲があるのは伝統だが、何故こんなに間奏曲があるのかとツッコミたくなるだろう。マスカーニのカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲などが有名だが普通は1曲しかないことが多い。ワーグナーが神々の黄昏で間奏曲を2曲用いているが、これは完全にストーリー上必要なものである。それでも2曲。各幕の間に雰囲気を出して盛り上げるために間奏曲を4曲も用いるのは、ブリテン以外にはそうそう見当たらない。そして、この間奏曲がまた非常に好評だったため、ブリテンはこうして管弦楽組曲にまとめることになったのだ。
第1曲「夜明け」は、弦楽器の高音やアルペジオが海を、そして低音から徐々に姿を現す金管楽器の和音が太陽を表現していると考えて間違いないだろう。例えばR・シュトラウスのアルプス交響曲やグローフェのグランドキャニオンのような、感動的で高揚するような描写では決してないが、ドビュッシーの交響詩「海」のような繊細な絵画性が見られる。
スケルツォ楽章のような第2曲「日曜の朝」はブリテンの絶妙なリズムとオーケストレーションが楽しめる。ホルンの和音とスタッカートの木管楽器に、鐘の音と金管のコラール。教会に村人たちが集う日曜の朝だ。太陽の光が海面に反射しキラキラと光っている。この曲では、ブリテンが関心を抱いていたバリ島のガムラン音楽からの影響も見ることができるだろう。
第3曲「月光」は緩徐楽章の役割だが、オペラでは登場人物の死を受けて次の幕へ進む間の間奏曲となっており、続くシーンを効果的に予期させるような、ブリテンのドラマ的才能も窺い知れる。夜の闇の中で時折跳ねる波の音のようなシロフォンが印象的だ。この作品は全体としてパーカッションの使い方が巧い。
第4曲「嵐」でも、冒頭から大活躍するティンパニの連打が格好良い。獰猛な海の嵐。オケの皆さんにとっても非常に辛い、変ホ短調という難易度高い調。
1曲4分程度で計16分ほどの長さ。ブリテンを全く知らない人が彼の作風を知るのにちょうど適していると言えるだろう。
オペラ『ピーター・グライムズ』の中核である“北海”の、温和で恵み深い面と、厳しく過酷な面の両方が描かれている海の間奏曲。ブリテンの傑出した描写と彼の独自の作風を味わいながら、どこか聴衆の精神に心理的振動を起こさせる音楽であることを感知できるのではないだろうか。その答えはオペラにある。アイアランドの言葉は的確である。この曲のただならぬ面持ちは、掘っていけば深く深く根付いているものがあることを示唆しているのだ。

最後の演奏会 最後の演奏会
ボストン交響楽団,ブリテン,ベートーヴェン,バーンスタイン(レナード)

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