Sullivan: Concerto for Cello


グルダ チェロとブラス・オーケストラのための協奏曲


フリードリヒ・グルダはモーツァルトやベートーヴェンの演奏で名高いウィーンのピアニストだが、彼は作曲活動も行なっている。今回取り上げたこの曲は、ジャズに傾倒した時期もあるグルダらしい、非常に刺激的な音楽だ。
まず、チェロとブラス・オーケストラ(吹奏楽)、この編成はもしかすると実験的な編成に感じるかもしれない。グルダがこの編成の協奏曲を作曲したのは1980年だが、実はその半世紀以上も前、1925年に、イベールが同様の編成のチェロ協奏曲を残している。こちらは木管合奏にホルンとトランペットが加わり、チェロと絶妙な絡み合いを魅せる、色彩豊かで小粋な曲で、いかにもイベールといったところ。
また、欧米のブラス・オーケストラにはチェロがいることもままあり、その編成に合わせて吹奏楽のオリジナル曲を委嘱・作曲するというケースもあった(今もある)。かつての日本の吹奏楽コンクールではチェロの使用もあったという話も聞くし、吹奏楽ポップスの神様である岩井直溥氏も、吹奏楽にチェロがあったらどれだけ良いか、という事を語っていたそうだ。
そんなこんなで、チェロと吹奏楽というのは相性の良い組み合わせと言っても良いだろう。もっとも、グルダの作品は、それほどその関係性を活かしたものにも思われないのだが……
どういうことかと言うと、音楽的にはどうにも「やっちゃった」感が強い、半分おふざけのような作品なのだ。もちろん、良い意味で。
ブラス・オーケストラと言っても、イベールの協奏曲の伴奏とは違い、こちらはコントラバスにギターにエレキベースにドラムセットと、随分豪華な顔ぶれ。
正統派チェロ奏者のハインリヒ・シフが、グルダにベートーヴェンのチェロ・ソナタの伴奏を頼む口実として、チェロ協奏曲を依頼したところ、グルダがしかたなく(そして多分適当に)書いてあげたのがこの曲で、シフもきっとその辺りの感覚を理解したのか、今度はそれを各地で堂々と演奏し人気を博し、グルダとしては「仕方なく頼んだ曲でシフをキリキリ舞いにしてやったぜ参ったか」と言ったところ、シフにしてみれば「グルダの悪ふざけに、僕はどこまでも大真面目に応えてあげよう」と言ったところか。(半分は資料に基づき、半分は僕の想像なのでまあ話半分でお願いしたい。)
この曲を端的に説明した上手い表現が、2011年のシアトル・タイムズの記事にあったので、引用しておこう。「この協奏曲は――底抜けに陽気で感動的な――ジャズ、メヌエット、ロック、少量のポルカにマーチ、そしてスターチェリストが即興で弾く2箇所のカデンツァを含む、5つの全く異なる楽章からなる」。これ以上コンパクトには表現出来ないというくらい、盛りだくさんな音楽だ。


チェロの印象的なリフから始まり、ブラスが応えたら試合開始。エレキベースとドラムがファンキーなグルーヴを生み、やたらカッコいいメロディーをチェロが奏でる。
かと思うと、天上の音楽かと思われるような、古典派の香り。このギャップにやられた人も多いことだろう。さすがは伝統と革新の間隙を突く、これぞグルダの深い音楽性である。
2楽章の牧歌、これは金管楽器のコラールから始まり、このブラスの雰囲気は独特で、ちょっと野暮ったいが実に良い温かみを感じる。チェロと木管も加わり、響きを豊かにしつつ曲は進む。常に金管楽器たちが牧歌を先導する。まるでちょっと粗野だが心優しい牧人と、汚れなき動物たちのようだ。中間部のギターと木管による舞曲も可愛らしく魅力的だ。牧童たちが楽しく遊んでいる様子が目に浮かぶ。
3楽章はカデンツァ。曲が曲なので、カデンツァもかなり攻撃的というか、前衛的なものにならざるを得ないと思うのだが、基本的には楽しい音楽だとも思っているので、楽しくないカデンツァではないのは確かだ。
4楽章は、この曲唯一の真面目成分と言っていいメヌエット。哀愁漂うメヌエットは、ギターが際立ってポップな印象も加わる。金属系の打楽器の音がまたなんとも、チープな雰囲気を演出してくれて、おふざけに手を抜かないグルダの良い仕事ぶりがうかがえる。
5楽章は軍楽隊も真っ青のズンチャッチャマーチ。モーツァルトも通り越したような底抜けの明るさには、聴いている方もちょっぴり赤面してしまうほどだ。独奏チェロ自体は案外ロマン的で、流れるような旋律や耳に優しいきれいな旋律が豊富。そのバックで、優雅さや高貴さとは無縁な管打楽器が好き放題やってくれているおかげで、こんなにも可笑しい愉快な雰囲気が出来上がるのだ。
こんなやっちゃった音楽を、シフが真面目に演奏している様子は、ちょっと笑えてくる。グルダもきっとそうだっただろう。楽しい楽しい、愉快な愉快な音楽。

Sullivan: Concerto for Cello Sullivan: Concerto for Cello
F. Gulda

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