ストラヴィンスキー:バレエ音楽「アポロ」、バーゼル協奏曲、古いイギリスのテキストによるカンタータ


ストラヴィンスキー 弦楽のための協奏曲 ニ調(バーゼル協奏曲)


ストラヴィンスキーの作風は、時期によって大きく三つに分けられる。初期は「火の鳥」や「春の祭典」、「ペトルーシュカ」などに見られる、変拍子や強烈なリズムが特徴の原始主義。中期は初期のような荒々しさも少し落ち着いて、新古典主義の作風を取る。そして後期は、12音技法を取り入れたセリー主義。これだけコロコロと作風が変わる作曲家も珍しい。
おそらく一番人気なのは、彼の原始主義時代の音楽であろうが、いつもいつもストラヴィンスキーが演奏会で取り上げられるときはそういった激烈な音楽ばかりで少々食傷気味なのも事実。たまには彼の新古典主義音楽も取り上げて、もう一つのストラヴィンスキーの顔を多くの人に知ってもらいたいと思っている。
そもそも僕は新古典主義が大好きで、それは少年の頃、プロコフィエフの「古典」を聴いてシビレたからというのがきっかけである。この新古典主義の先駆けとも言える作品は僕にとって非常にセンセーショナルだった。そして「新古典」と分類されるものなら皆この曲のように素敵なんじゃないだろうかと思ってたくさんの音源を手にとってみたのだ。結果、そうでもないと撃沈することになるのだが。
しかし、ストラヴィンスキーが新古典主義の音楽を残しているということに昔の僕は正直かなりびっくりした。何しろ「春の祭典」や「火の鳥」の人である。あんなにぶっ飛んでで意味不明な(?)音楽を作る人が、こんな落ち着いた古典的な曲を作るだなんて! それからストラヴィンスキーのことが以前よりずっと好きになったのだ。
この「弦楽のための協奏曲」は、パウル・ザッハーという指揮者・音楽界の大パトロンの委嘱で書かれたもので、同じようにザッハーの委嘱で作曲された作品に、バルトークの「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽」やオネゲルの交響曲などがある。
ザッハーはかつてバーゼル室内管(現在の同名のオーケストラとは異なる。現在のバーゼル室内管は、ザッハーの旧バーゼル室内管の精神を受け継いで新設されたオーケストラ)を設立し、古典派や近代音楽などを取り上げていたが、その創立20周年記念に作曲されたのがストラヴィンスキーの「弦楽のための協奏曲」であり、「バーゼル協奏曲」という愛称もある。
3楽章構成で、12, 3分の長さ。気軽に聴けるので、ぜひさくっと聴いてみていただきたい。


アメリカ亡命後では初となるヨーロッパからの委嘱であり、ハリウッドの自宅で完成させたこの“バーゼル協奏曲”は、1947年1月27日にザッハー指揮バーゼル室内管によって初演された。
協奏曲と言っても、バロック時代の合奏協奏曲のようなもので、例えばバーゼル協奏曲より先に作曲された協奏曲「ダンバートン・オークス」などは、長さも15分程度だし、楽器編成もバロックの合奏協奏曲そのものである。そういった古典的概念が当時のストラヴィンスキーの協奏曲には大いに反映されており、バーゼル協奏曲のほんの1, 2年前のクラリネット協奏曲である「エボニー協奏曲」も、編成こそ違えど、曲の長さも10分前後。この時期のストラヴィンスキーの協奏曲は、3楽章が急-緩-急である点や、「コンチェルティーノ」と「リピエーノ」という合奏協奏曲の典型的手法が活かされている。
バーゼル協奏曲では、楽章は1.ヴィヴァーチェ、2.アリオーゾ(アンダンティーノ)、3.ロンド(アレグロ)、と分けられ、1楽章ヴィヴァーチェでは、中間部のテンポは抑えめだが、ほとんどソナタ形式のように展開している。ちょっと陽気な主題が面白い。
2楽章は抒情的な旋律が美しい。その旋律がまた短い。綺麗だなあと思って聴いていると、すぐに無関係な調性の謎のカデンツァが挟まって中断する。2度の風変わりな中断を挟んだ個性的な緩徐楽章である。3楽章はこの時期のストラヴィンスキーに特徴的な刺々しいリズムがたっぷり味わえる。こういう音楽を聴くとストラヴィンスキーらしいと感じる人は多いのではないだろうか。ちょっとウィットに富んだ旋律は、この楽章でも顕著だ。
何よりこの曲の面白いところは、ニ長調とニ短調の間を絶妙に行き来するところである。冒頭から、嬰ヘ音でニ長調を意識させつつ、直後にもう3小節目で第2ヴァイオリンとヴィオラ、チェロ、コントラバスがヘ音を鳴らす。こういう何処とも着かない宙ぶらりんな雰囲気が全体を支配している。
バーゼル協奏曲は、ストラヴィンスキーの新古典主義時代の中でも最後期の作品に当たる。短い曲だが、非常に出来上がりの良い作品だと思う。
彼の作品全体を俯瞰したとき、パンチの強い原始主義時代と、ストラヴィンスキーの音楽性全てが高められたセリー主義時代の音楽に挟まれて、新古典主義時代は地味で退屈な作風に思われてしまうこともしばしばある。しかし、ストラヴィンスキー自身も、彼の12音技法について、調性を捨ててはいないと断言しているのだし、「様式と調性」というストラヴィンスキーの音楽のひとつの基準となるフレームを築いた時代に、もっと目を向けても良いのだろう。

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