ラロ:チェロ協奏曲


ラロ チェロ協奏曲


スペイン交響曲で有名な作曲家ラロは、一応誤解のないように言っておくが、スペイン人ではなくフランス人である。
さらに言えば、この人の音楽性が最も発揮されているのは室内楽だ。これは間違いない。何かの文章で「ラロのオーケストラ作品を理解するには、彼の室内楽作品を聴けばよくわかる」というようなよくある文言を目にして、本当かなあと疑いながら聴いてみたら、これが思いの外素晴らしい作品だらけだった。また取り上げよう。
ラロのチェロ協奏曲に惹かれたのは、平井丈一郎の独奏による、カザルス指揮東京交響楽団の1961年の日比谷公会堂でのライブ録音を聴いたのが最初だ。カザルスと東響の熱い伴奏に、愛弟子平井の力強い演奏。ラロにこんな名曲があったかと膝を打った。
他の録音を聴いてみると、フルニエの録音に出会い、それから一気にこの曲が好きになった。お誂え向きな表現だが、「フランスのエスプリ」を感じる。線の太さと細さのコントロール、拍の微妙なずらし方などが、他の演奏と一線を画する。一見不真面目な演奏に聞こえるかもしれないが、他にはない面白さがある。ミュレール先生の弾くプーランクのチェロ・ソナタを聴いたときにも同じようなものを感じたものだ。
1878年の作品で、ラロがスペイン交響曲で人生最大の成功を手にした2年後にあたる。この頃のパリは、伝統をあえて崩していく前衛派閥が力を伸ばして来た頃であり、そんな音楽家たちに対抗して協奏曲の古典形式を維持(あるいは復興かもしれない)するのに重要な役割を果たしたのが、サン=サーンスとラロであろう。
オペラやオペレッタが流行している中、ラロは室内楽というやや地味で、かつ深みのある世界に傾倒していく。自らも弦楽四重奏団を結成しヴィオラを弾いたし、またラロはパリで音楽を学ぶ前は地元リールのコンセルヴァトワールでヴァイオリンとチェロを学んでいた。それらも彼の作曲活動に大きく影響しているし、もちろんサラサーテのヴィルトゥオージが協奏曲へのモチベーションを与えていたのも忘れてはならない。
ベルギーのチェロ奏者アドルフ・フィッシャーに捧げられ、彼の独奏で初演された。初演は大成功だったようだ。


全体的には旋律とリズムが強く打ち出されている印象だが、半音階的なハーモニーが巧みに扱われている。フランス六度の和音を好み、和声進行で独特の推進力を生み出しているのがわかるだろう。シューマンやメンデルスゾーンのような様式に、ロシア・フランス・スペイン、もしくはスカンジナビア風の民族音楽的な表現方法を融合させている。国民主義音楽とまではいかないかもしれないが、それに近いものはある。
1楽章、スペイン交響曲を髣髴とさせる、レントからアレグロ・マエストーソの厳格かつ雄弁な幕開け。強力なリリシズムを感じる。第二主題の親密な旋律がわかりやすくコントラストを作るのもまた美しい。チェロを聴けば、主に低音域でブイブイ言わす第一主題と、高音域が多めで泣きのメロディー第二主題と、チェロという楽器の持つ魅力がすぐに全開になる。
中間楽章のインテルメッツォ、ゆっくりの部分と、スペイン風のスケルツォ(アレグロ・プレスト)が交互に現れる。この楽章から漂うスペインの香りは、ラロの祖父がスペイン人だからという理由よりも、当時のフランスにおける音楽の流行が理由だと考えられる。血筋云々ではなく、ラロはもっと外的要素を捉えて音楽に組み入れる作曲家だ。
この楽章はどことなくチャイコフスキーの面影を感じるような気がするが、どうだろうか。オーケストレーションにおける適材適所、チェロのソロ旋律から引き出されたフルートの二重奏、弦楽器のピツィカート、これらが上手く組み合わさって、完璧なテクスチャーが作りこまれている。このあたりに、チャイコフスキーへの敬愛を感じてしまう。
終楽章も序奏から始まる。まずはチェロの長台詞だ。燃えるようなアレグロ・ヴィヴァーチェのリズムに道を譲ると、またもスペイン風の旋律を呼び起こすロンド。これぞ協奏曲の伝統。いいクラシック音楽を聴いたという気分になるものだ。


様々な協奏曲があるが、この曲の冒頭などを聴くと、チェロの厳粛で朗々たるカンティレーナが、オーケストラによる度重なる中断にも負けることなく歌い続け、総当たり攻撃をしかけるオーケストラに最後には打ち勝ち、彼らを飼い慣らすことに成功する、というようなイメージが湧くのではないだろうか。ラロの協奏曲のチェロ奏者は、まるで冥界の者たちをその歌声でもって魅了したオルフェウスのようだ。彼はエウリュディケーの代わりに、古き良き古典形式を取り戻さんとする音楽家、そんな彼には「セロ弾きのオルフェ」の名を与えよう。もっとも、オルフェウスは妻エウリュディケーを助けることは叶わなかった訳だが……。

ラロ:チェロ協奏曲 ラロ:チェロ協奏曲
フルニエ(ピエール),ラロ,サン=サーンス,ブルッフ,ブロッホ,マルティノン(ジャン),ウォーレンスタイン(アルフレッド),パリ・ラムルー管弦楽団,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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