ロドリーゴ:アランフェス協奏曲、アンダルシア協奏曲


ロドリーゴ アンダルシア協奏曲


スペインの作曲家ロドリーゴ(1901-1999)の最も有名な作品は言うまでもなくギターとオーケストラのための「アランフェス協奏曲」(1939年)だが、似たようなギターのための協奏的作品は多く、アランフェス協奏曲の成功を皮切りに、ギターと管弦楽のための「ある貴紳のための幻想曲」(1954年) 、4台のギターと管弦楽のための「アンダルシア協奏曲」(1967年)、2台のギターと管弦楽のための「マドリガル協奏曲」(1968年)と、ギター協奏曲の大家である。
どれも魅力的な作品であり、それぞれじっくり語りたい気持ちはあるが、まず取り上げるのは、豪華なことにギター奏者4人をソリストに迎える「アンダルシア協奏曲」だ。
なぜこの曲なのかというと、明るくて良い曲だからだ。なんだか頭の悪そうな理由で申し訳ないが、本当のことだ。いわゆるアンダルシアのイメージ通り、地中海に面し、太陽の日差し眩しく、青い海と白い壁の町並み、本場のフラメンコを横目にシェリー酒を……なんて光景も目に浮かぶ。行ったことないけど。しかし寒い冬に聴くアランフェスの2楽章はちょっと凍える。このくらい温かさのある曲が良いのだ。真夏にシベリウスを聞きたくなるのと同じように。
アンダルシア地方の民謡を直接引用しているわけではないものの、ロドリーゴはリズムや曲全体の雰囲気において民謡を下敷きにしており、そのおかげで誰にとっても聴きやすい曲になっている。また、ギターという楽器は元々音量の都合でオーケストラと合わせるのが難しいと言われるが、それも4本であれば音量という弱点はぐっと補強される。音の厚みもまたこの曲の明るい雰囲気を演出する手助けをしている。
ロドリーゴは様々な名ギタリストからの依頼で協奏曲を作っており、このアンダルシア協奏曲はスペインのギターの名門、セレドニオ・ロメロとその息子たち(アンヘル、セリン、ペペ)の4人でロメロ・ギター四重奏団として活動する、ロメロ一家からの依頼で作曲された。


実に明朗な音楽であまり深刻に捉えることもないが、実演しようと思ったらこれはなかなか深刻な話だ。なにせギタリスト4名が必要になる。普通のアマチュア楽団であれば4人呼ぶのは大変だし、むしろ1人呼べば出来る超名曲がロドリーゴには既にあるわけで、そう安々とチョイスされない。
3人のための協奏曲といえばベートーヴェンの三重協奏曲が有名だが、4人のための協奏曲となるとそうない(もちろんマニアックなものはいくらでもあるが)。有名なものだとシューマンの4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュックくらい。ホルンはオーケストラ楽器なのでどこかのオケのホルンパートが丸々出てくればできるのだが、ギターはそうではない。ギタリスト4人か、ギターデュオ2組か、ギターカルテットを呼ぶか。
とは言え、やはり曲が良いので実演機会もままある。ただし、常設の激ウマなギターカルテットなど世界中探しても極僅かだし、プロのギタリストを4人呼んでも、4人合わせた練習機会をたっぷり取って本番に臨むなど実際不可能に近いため、なかなか完璧な名演に出会えないのが玉にキズだ。
委嘱主であるロメロ・ギター四重奏団が演奏している録音があるので名盤の栄誉にあずかっているが、他にも2組のデュオによる録音もあるし、日本では2014年に荘村清志のデビュー45周年を祝して、荘村と福田進一、鈴木大介、大萩康司の4名という豪華な顔ぶれでライブが実現した。荘村の手堅くも味のある職人芸と福田のエモさ迸る歌いっぷりが本当に素晴らしく、2楽章など感動のあまり失神モノだが、1,3楽章は歴代最遅テンポかというオケの牛歩演奏でギターが走ってるかのように聞こえる場面も。グルーヴもへったくれもないのが悔しい。大友直人指揮の都響が伴奏で、まったりとした田園風や旧き良き合奏協奏曲風を意識し過ぎているのか何なのか僕の足りない頭では解釈が追いつかないが、個人的にはこの曲の1,3楽章の楽しさは生き生きとした「明るい」ところだと思うので、ロドリーゴの他の作品にも言えることだが、良くも悪くもちょっと通俗的なところにこそ魅力があるように思う。なお当時の荘村清志のインタビュー記事がぶらあぼのサイトにあるので、興味のある方は以下の画像のリンクからどうぞ。
当然ライブならではの良さというものはスタジオ録音では味わえないが、特に近年はクラシック音楽全般においてスタ録盤並に上手い演奏のライブ録音に出会えるのだけれども、この曲はまだそういうライブに出会えていないのが悔しい。それでもわかるのだ、この曲は素晴らしい名曲なのだと。


1楽章「テンポ・ディ・ボレロ」はその名の通り、スペインの香りを豊満に湛えたリズムの刻みが心躍らせる。この際立つリズムが旋律を作っていく。どことなく、リムスキー=コルサコフのスペイン奇想曲の冒頭を思わせる。このリズミカルなギターと、追って入る悠々とした弦楽のコントラスト、美しいではないか。オーケストラとギターとの掛け合いもあるが、ギター同士の掛け合いも楽しい。めくるめく音色の世界が展開する。管楽器の使い方などはアランフェス協奏曲よりもずっと洗練されているように聞こえる。
2楽章「アダージョ」は、一見するとアランフェス2楽章の二番煎じのようだが、決してそんなことはない(ロドリーゴは元々この曲の作曲の際に、アランフェスのギターパートを4人用にアレンジするという苦肉の策も考えてはいたようだが)。4番ギターの伴奏とともに、1番と2番が交互にメロディーを奏でる。この対話も静かながら熱い。特に中盤のギタリストたちによるカデンツァは聴きどころだ。今まで口数少なかった4番が口火を切るのが面白い。緊張感と哀愁、その陰で燃える情熱を感じたい。
3楽章「アレグレット」は祝祭的だ。繰り返しになるが、ギターが4つあると伴奏がある程度ワイワイ鳴っていても、裏できちんとギターの刻みが主張していて全体の熱量も大きく、盛り上がりに不足はない。飽きないし、ダレないのがいい。オケがでしゃばって「あれ?ギターいないの?」みたいに思うことは皆無だ。コロコロと旋律の担当が移り変わるのも聴く者を飽きさせない。色とりどりの衣装を着て代わる代わる踊るダンサーたちのようだ。終わり方もかっこいい。大げさにならず、渋い終わり方だ。この伊達男っぽさがいかにもギターらしくて大好きだ。ぜひ聞いてみて欲しい。

ロドリーゴ:ギター協奏曲集Vol.1 (Rodrigo : Guitar Concertos Vol.1 / Amadeus Guitar Duo) ロドリーゴ:ギター協奏曲集Vol.1 (Rodrigo : Guitar Concertos Vol.1 / Amadeus Guitar Duo)
デイル・カヴァナウ,アマデウス・ギター・デュオ,エデン=シュテル・ギター・デュオ,ロドリーゴ,ホルスト=ハンス・ベッカー,インターナショナル・フィルハーモニー,デイル・カヴァナウ(G)

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