リスト 死の舞踏:『死の舞踏』が聴きたい

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リスト:ピアノ協奏曲第1番&第2番


リスト 死の舞踏 S.126


「死の舞踏」という名が付く作品は色々あって少々紛らわしい。
今回取り上げるリストのピアノと管弦楽のための曲(S.126)は、1847-62年に改訂を繰り返しながら完成したもの。1865年にはピアノ独奏版(S.525)、年代は定かではないが2台ピアノ版(S.652)にも編曲している。
なお、サン=サーンス作曲の管弦楽曲「死の舞踏」は1874年。リストより後の作品だ。そしてリストがサン=サーンスの死の舞踏をピアノ編曲したのが1876年(S.555)。
サン=サーンスの管弦楽曲は今回は一旦置いておくとして、サン=サーンスからのアレンジも含め、リストの様々なバージョンの「死の舞踏」は、どれもピアノレパートリーとして重要な作品であることには違いない。
ソロで超絶技巧を聴きたければそれも良いし、僕は常々言っているがピアノ協奏曲というジャンルが好きなので、ピアノと管弦楽による演奏を推しておこう。


そもそも「死の舞踏」とは、ペストの大流行や百年戦争などがあった14~15世紀のヨーロッパで流行した美術のモチーフで、ミヒャエル・ヴォルゲムートによる骸骨が踊っている絵や、ハンス・ホルバインによる骸骨が死を告げに食卓にやってくる絵などが有名である。
リストがなぜこのモチーフを選び作曲しようと思ったのかは、色々な研究やら憶測やらがあるが、一般的に言われているのは2つで、1つは有名なホルバインの木版画や、1838年のイタリア旅行でオルカーニャのフレスコ画「死の勝利」を見て感銘を受けたことと、もう1つは1830年にベルリオーズの「幻想交響曲」の初演を聴いて衝撃を受けたことである。初演から作曲まで相当期間があるが、確かにリストの「死の舞踏」を聴くと幻想交響曲との近似を感じるし、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」の旋律を引用している点も同じだ。4年後には幻想交響曲のピアノ編曲もしている。


幻想交響曲もその斬新なオーケストレーションで楽界を騒がせたが、死の舞踏もまた、本当に先進的な作品である。何よりもピアノのパーカッシブな利用を示唆している点で先進的だ。一応、音楽史的にはピアノ協奏曲でそういったピアノの使い方を大々的に取り入れたのはバルトークということになっているが、バルトークのピアノ協奏曲が世に現れる100年近く前の作品と考えると、さすがピアノの魔術師と呼ばれるだけはある。バルトーク自身も死の舞踏を演奏したことがあるそうなので、きっとインスピレーションを与えたことだろう。
まさにパーカッシブな冒頭、ピアノとティンパニだけでスタートするこの組み合わせも当時は衝撃だったろう。すぐに低弦と管楽器による「怒りの日」の旋律が重々しくのしかかる。ピアノが主題を提示し、その後6つの変奏となる。第1変奏のバスーンの活躍も管弦楽法の巧みさを表しているし、第6変奏のピッツィカートやコル・レーニョ奏法の使用も幻想交響曲を彷彿とさせる。随所に現れる強烈なピアノのグリッサンドや、ひたすら連打が続く第5変奏フガートも実に打楽器的である。
スコアの最後はピアノパートは何も書かれていない。とうとう死んだのかしら……冗談はともかく、何も書いてなくてもコーダなら何か弾くというのはモーツァルト時代からの伝統である。リスト自身の演奏を見たという弟子のシロティの証言によると、リストは狂わしいほどのオクターブを連打していたらしい。オーケストラはトゥッティなのであまり聴こえないこともあるが、現代の演奏でも弾くのが普通になっている。
ピアノの技法を魅せるのはもちろん、それ以上のものもふんだんに享受できる作品である。僕が色々書くより、ミッシャ・ドナート(元BBCRadio3のプロデューサー)がライナーで紹介していたボロディンの言葉を引用しよう。言葉はこれで十分だろう。


1881年の夏、マクデブルクでリストに会ったボロディンは、友人で作曲家のキュイに、興奮気味にこう伝えている。「僕は彼に『死の舞踏』が聴きたいと言った。この曲は僕が思うに、ピアノとオーケストラのための作品の中で最も力強い。楽想も形式も独創的で、主題は美しく、深く、力強く、楽器編成も斬新だ。非常に深遠な宗教性や、神秘性を感じさせ、ゴシック的な典礼の要素も持っている。そう言うとリストはすっかり興奮して、『そうなんです!』と叫んだ。『しかしどうだ、君たちロシアの人たちには気に入ってもらえても、ここドイツでは受けが悪いのです。5,6回演奏しましたが、演奏自体は素晴らしかったのに結果は大失敗でした』」


リストは当時この曲に大幅なカットができるようにスコアに記しているし、やはり受けが悪いの気にしていたのだろう。ロシアでは受けそうなのはわかる。この暗さはラフマニノフなどに通ずるものがある。ボロディンの感想を思い浮かべつつ、ピアノとオーケストラ版を聴いていただきたい。惹きつけられる要素は本当にたくさんある。そして何度でも「死の舞踏」が聴きたい、と思うはずだ。

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