Szymanowski: Stabat Mater/Lita


シマノフスキ スターバト・マーテル 作品53


シマノフスキを取り上げるのは7年程前に「弦楽四重奏曲第2番」を書いて以来。こちらは1927年の作で、シマノフスキの3つの創作期の内の一番最後、第三期に位置づけられる作品だ。
ということで、せっかくなら第一期や第二期の曲を書いたら良いのに、またしても第三期の曲だ。クラシック鑑賞を趣味にしてそれなりに経つし、シマノフスキ作品もそれなりに聴いてきたが、なかなか彼の音楽の魅力を言葉で説明するのは難しい。日本で特に人気になったりもしないし、イマイチ浮かばれない作曲家である。
そんなシマノフスキの、これまた特に魅力を語るのが難しそうだなと自分でも思う、「スターバト・マーテル」について書いてみるので、ぜひ読んでいただきたい。


「スターバト・マーテル」(悲しみの聖母)自体は、カトリックの聖歌の一つで、パレストリーナやペルゴレージからドヴォルザーク、プーランク、そしてシマノフスキと同郷ポーランドの作曲家ペンデレツキの曲も有名だ。
シマノフスキのスターバト・マーテルは何が特徴かと言うと、ポーランド語翻訳版の歌詞が用いられていることだ。これが魅力でありかつ、厄介な点でもあるのだ。他の作曲家は大体ラテン語なのに、日本でも相当マイナーであろうポーランド語、これが人気の出ない理由の一つだろうし、逆にポーランドで非常に愛される理由でもある。
1925年から26年にかけて作曲され、ソプラノ、アルト、バリトン、混声四部合唱とオーケストラという構成。6つの楽章に分かれており、典礼文を用いた宗教曲としてはシマノフスキにとって最初の作品となる。
シマノフスキの創作第三期は、ポーランド民謡を作曲に取り入れ出した時期で、国民主義期とも言える。民謡の力強さ、自然への親愛、そして激しい感情表現などが特徴的だが、さすがにスターバト・マーテルとなると、そのエッセンスも直接的というよりかは、かなり柔和な形で取り込まれていると思う。母国語の使用、母国民謡の使用と、シマノフスキの愛国心が強く刻まれた作品であることは違いない。


元々の作曲のきっかけは有名なパトロンのポリニャック公夫人から「ソリストと合唱とオーケストラのための、ポーランド版レクイエムのような作品を」と依頼されたことである。その後シマノフスキと彼女の交流は疎遠になったので、実際はワルシャワの実業家から亡き妻の思い出にそういう編成の曲をと依頼をもらったことと、1925年1月にシマノフスキの姪っ子が亡くなったことである。子を亡くした母、シマノフスキの妹のことだが、母の悲しみ・嘆きは、まさにスターバト・マーテルの主題である。
印象的な木管楽器のソロで幕を開け、続いてまたも少し不思議な印象の、調性感はあるが伝統的な美しいメロディではないソプラノの旋律でポーランド語の「スターバト・マーテル」が歌われる。ポーランド語に堪能ではないので、僕にはその感覚はさっぱりだが、シマノフスキはじめポーランド人にとっては、やはり生々しさを感じるもののようだ。シマノフスキは「ポーランド語訳版の、異常なまでのプリミティブさと、ほぼ民俗的なシンプルさ、純朴さ」に興味を持ったのだと音楽学者コーネル・ミハウォフスキは指摘している。また別の学者はこの曲を「農民レクイエム、百姓と教会と、素朴な魂の祈り、宗教やペイガン、そして厳しい人民たちの現実の、無邪気な混合物である」と捉える。聖と俗、地に足を着けて天に祈る。日本人としてはカンタータ「土の歌」のようなものを思い起こせば良いのだろうか。


それでは、言い方は悪いがその「俗」っぽい部分をどのくらい感じられるのかというと、ポーランドの知識が薄い日本人にはこれもまた難しいのだ。邦人作曲家の曲のように、すぐに日本の民謡が底流にあることを見抜けるか……それこそショパンやパデレフスキのような、ポーランド北部民謡の明快さもない。
シマノフスキは作曲当時、バルトークやストラヴィンスキーの影響で、よく南部のザコパネ(ポーランド屈指の保養地)やタトラ山地を訪れた際に民謡を採集した。このポーランド南部民謡が肝である。スターバト・マーテルには、タトラ山地のポドハレの民謡を用いたとされている。この民謡の旋法、特に増四度(三全音)を持つリディア旋法の古いポーランド民謡を用いた。
一回試しにタトラ民謡を聴いてみていただきたい。なんというか、非常に旋法的で、とっても「リディアン」である。この民謡とスターバト・マーテルを並行して聴いてもらえればきっと感覚的にわかると思う。


さあ、かなりこの曲の理解に近づいたぞ、と思ったところでさらなる一撃。シマノフスキは民謡に加えて、古楽の研究にも力を入れた。まあスターバト・マーテルを書こうという作曲家は大体そうだろうけど。パレストリーナ前後の音楽やポーランドの古い宗教音楽から、旋法はもちろん、声部の動き方やオスティナート的なリズムなどを抽出し、旋律には古いポーランドの賛美歌Święty Boże(聖なる神)とGorzkie żale(辛い悲しみ)も取り入れられている。


結局こんなにたっぷりの内容になってしまった。たくさんの要素がまとまり、名曲たらしめている。こんな説明で魅力が十分伝わるとも思えないし、だからと言って専門家にとっては大したことなさそうなこの程度の量の情報を知らずしてこの曲の魅力に気付ける日本人リスナーもそういないように思う。シマノフスキ、気の毒な作曲家だこと、どうかこの日本でも彼に栄光を、アーメン。

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