国枝春恵 男声合唱のための「夫婦善哉」~「誹風柳多留」より:男声は哀しからずや江戸の歌

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合唱曲集 「花に」


国枝春恵 男声合唱のための「夫婦善哉」~「誹風柳多留」より


時々こうしてブログで邦人合唱作品を取り上げるのは、いわゆるクラシック音楽のファンと、合唱が好きな人との間には壁があって、なかなか交わらないと感じているからであり、少しでもお互いにお互いの魅力が伝わればいいなあと思っているからである。
つまり、いわゆるクラシック音楽ファンがあまり聴かなそうな、松下耕とか信長貴富とかのことを紹介したいのだが、今回は国枝春恵を取り上げよう。敬称略で行きますよ。
正直この曲1曲を挙げて国枝作品の紹介とするのはちょっと迷う気持ちもある。けれどCDのライナーに作曲者ご自身が「私の合唱作品の代表的なもの」と書かれていたので、まあ良いでしょう。
コミカルではあるが、テクニカルでもあり、ハートに刺さる芸術作品であることは違いない。モーツァルトやベートーヴェンと並んで紹介しても何の不思議もありません。
国枝がテーマに選んだのは「誹風柳多留」という、江戸時代中期から幕末まで刊行されていた川柳の句集で、そこから歌詞が取られている。この句集は柄井川柳という人物が句を選び、これ以降「川柳」という名前が定着していったという、いわば川柳の元祖のようなものだ。
その中の夫婦の諸々について詠んだ愉快でウィッティな句に現代でも通用する風刺性を見た作曲者は、男目線で女房についてアレコレ言う句を男声合唱で表現した。これは中々興味深いアイディア、鋭い視点だなあと思う。歌詞はこちら
誹風柳多留の句に加え、その前句付と、川柳の元になった和歌、あとは作曲者の言葉も入っている。
初演は第3曲のみが2002年の栗山文昭先生の還暦お祝いで演奏され、全曲初演は栗山文昭指揮Tokyo male choir KuuKaiによって2003年2月16日、トッパンホールで行われた。


いかにも江戸、という雰囲気の、五音音階で和風の旋律でわかりやすい。最初聴いたときは歌舞伎っぽい言い回しなのかなと思ったのだが、どうやら「謡」の手法らしい。僕はその辺のことは詳しくないが、謡であれば、亡くなった祖父の趣味だったのでよく聞いた覚えがある。そういう発声、歌い方を使った雰囲気は独特だ。
全体において、ツクツクと伴奏が入る。肝心要である「女房」の言い方にも注目だ。第1曲は女房の留守について詠んだ句で、今がチャンスとお愉しみなさる旦那の面白おかしい様子を歌う。「囲い、囲い、お妾さん?」というのが作曲者の言葉なのだろうか。囲いというのは家の囲いと「妾」の意味の囲い者とをかけて言っていることなので、それをわざわざ書いちゃう意味がわからないというか無粋というか、少年漫画でよくある技の解説してるモブのようで絶妙にダサいが、そこは目を瞑って、男声で滑稽に歌われる男どもの剽軽な様子を楽しもう。初演のライブ録音では、「花盛り、花盛り」で会場から笑いが起こっているので、何か面白い演出をしたのだろう。エンターテイメント性も高い曲だ。
第2曲は夫婦円満、のはずが、歌からはどことなく哀愁が漂う。まあそういうもんかもしれません。「女房」もポルタメントで、艶っぽい。第1曲よりは旋律もはっきりしており、ハーモニーもわかりやすい。テンポはゆっくりでも、パンパン、ポンポンとお琴や三味線を模したようなスキャットや、ツクツクと入るリズムも楽しいですね。
第3曲は夫婦喧嘩、最後は喧嘩で〆る、火事と喧嘩は江戸の花ってやつかい。いやいや、喧嘩するほど仲がいいってやつだろうね。伊勢物語の有名な歌をもじった「風ふかば」の句は一種のクライマックスであろう。ここで一山越えると、ハンドクラップも入り終盤へ向かう。拍手が煽るアッチェレランドから、木遣のようなソロ。これも見せ場、かっこいい。かっこいいのに歌ってるのが「旦那がまけて」なのは滑稽である。まあそんなもんである。そんなもん、という諦観、人生観のようなものも窺える、良い作品ではないか。
国枝春恵氏についてもっと知りたい人は、現役の作曲家さんなので公式ホームページもあります。この曲も載ってますよ。リンクはこちらから。

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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック・ファンです。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、つまりひたすら聴くだけ。演奏することにはほぼ興味・情熱はありませんが、それでもときどきピアノを弾いたり、バンドでドラムを叩いたりシンセサイザーを演奏したり、あるいは作曲・編曲をしたりします。more

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