Claudio Abbado: The Symphony Edition


メンデルスゾーン 吹奏楽のための序曲 ハ長調 作品24


指揮者クラウディオ・アバド最大の功績は何か。それはメンデルスゾーンの「吹奏楽のための序曲」をロンドン響と録音したことだ……なんて言い切っても良いくらい、評価されるべき録音だろう。
と最近、6月末に故アバドの誕生日(僕の誕生日と同じだ)が来たときに思ったのだ。ここ数年における僕個人のアバド録音のお気に入りとしては、60年代のトリノRAI響とのブラームスを挙げたい。あの甲高いオケから香るフルトヴェングラーのかほり。これがアバドと、カラッチオーロやモリナーリ=プラデッリとの決定的な違いである。
話が逸れたが、その直後に久しぶりに聴いたアバド録音のメンデルスゾーン、交響曲も名高いだろうが、この吹奏楽のための傑作の演奏は見事なものだ。


メンデルスゾーンの話にしよう。早熟の天才の証拠として管弦楽の分野では17才で書いた「夏の夜の夢」序曲(1826)が、室内楽の分野では16才で書いた「弦楽八重奏曲」(1825)が挙げられるが、それらよりもさらに早い15才の夏に作曲されたのが「吹奏楽のための序曲」(1824)である。
メンデルスゾーンが家族で避暑に訪れた北ドイツのバート・ドベラーンで、地元の吹奏楽団のために作曲。この当時の吹奏楽団は「ハルモニームジーク」(Harmoniemusik)と呼ばれる形態で、狭義にはオーボエ2、クラリネット2、ホルン2、ファゴット2の八重奏のことを指す。メンデルスゾーンはこれにフルート1、トランペット1、セルパン1を加えた11人編成で作曲し「夜想曲」と名付け、後にバセットホルンを含むクラリネット属を6本に拡大し、コントラファゴット1、トロンボーン3と打楽器を加えて23人編成の「ハルモニームジークのための序曲」として改訂した。
現代の演奏では、今の吹奏楽の編成に合わせて編曲されたものが主流で、それゆえ「吹奏楽のための序曲」という名称が一般的になっている。11人編成や23人編成の演奏もあり、管楽合奏の重要な古典レパートリーである。それにはもちろん、この時代に作曲された管楽合奏曲が少ないせいというのもあるが、この曲の持つ魅力の大きさも理由だ。メンデルスゾーンはこの曲を残すことで、吹奏楽の世界ではグラン・パルティータを残したモーツァルトに次いで吹奏楽界の古典の元祖となった。


アンダンテの序奏と、アレグロ・ヴィヴァーチェの主部の2部構成で10分くらいの長さ。この序奏の美しさは、さすがメンデルスゾーン。全くの嫌味、雑味がない。主部の爽快感あるハ長調の旋律もメンデルスゾーンらしい。疾走する雰囲気やアクセント、リズムはベートーヴェンの交響曲第7番の4楽章をも思わせる、シンプルだが熱狂的な音楽だ。ともすると、現代の吹奏楽団体がこの曲を演奏するのは異常に難しいかもしれない。とにかくシンプル過ぎる。
作曲された当時の吹奏楽団、ハルモニームジークはオリジナル曲も少なく、やはりモーツァルトやウェーバーやベートーヴェンのオペラの編曲などを中心に演奏していた。録音などない時代に、そういう曲をイベント時などに演奏する役目を果たしていたのだ。
今も地元密着型の吹奏楽団にはそういう機能ももちろんあると思うが、オリジナル曲が多くなってコンサートバンドとしての機能が大きくなり、オリジナル曲も増えた現代では、メンデルスゾーンをどう聴かすかというのは、指揮者も奏者も頭を抱えるだろう。もちろん、主部のクラリネットなどは速いとキツイが全体的にえげつない難易度とかではないので、普通に吹ける。しかし、普通に吹いたら、それはそれはつまらないと思うのだ。
ヒストリカルであればデジレ・ドンディーヌ指揮によるパリ警視庁音楽隊の1958年の録音がある。半音上げだし特別上手くはないが、時代を感じる良い演奏である。いかんせん、現代でこの通りにやるのはあまりセンスを感じない。
汐澤安彦先生指揮による東京アカデミック・ウインド・オーケストラの演奏は工夫している。序奏のテンポを上げ目で冗長にならないようにし、主部のテンポを落とし目にして丁寧に旋律を聴かせる。こういう手もある。汐澤先生をもってしても、やはりこういう正攻法とは違う攻め方をせざるを得ないのか、とも思う。東京佼成ウインドオーケストラや大阪市音楽団という上手いプロの録音もあるが、曲の良さというよりも、そのオケの音が好きで聴きたいなら、という感もある。
有名オーケストラであればネヴィル・マリナーとアカデミー室内管の録音もあるが、どうも技術的に覚束ないところがある。
そこで堂々登場、アバドとロンドン響である。これぞ正攻法。優秀なオケによる美しい序奏、主部の高速パッセージなどは管楽器のヴィルトゥオージを感じる。録音はさすが大手のサウンドマンの技術もあるだろう。この曲の魅力を存分に発揮する、素晴らしい演奏・録音だ。これだって1986年録音、30年以上も前だ。意外と演奏機会はあるものの、録音が流通する機会は、特にプロだとあまりないのが惜しい。アバド/ロンドン響を超えるような、スンバラシイ演奏の出現に期待しよう。

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