グアスタビーノ 鳩のあやまち:アルゼンチン国民楽派の歌

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グアスタビーノ 鳩のあやまち


アルゼンチンの作曲家、カルロス・グアスタビーノ(1912-2000)を取り上げよう。アルゼンチンの作曲家と言えば? アストル・ピアソラが最も有名だろうか。あるいはもう少し正統なクラシック音楽ファンならヒナステラを挙げるだろう。はたまた、グラミー賞を受賞したゴリホフ、彼も昔このブログで取り上げた。意外にも、アルゼンチンの作曲家はこれで4人目となる。自分でも驚きである。
先に挙げた3名よりも先輩に当たる(ヒナステラとはほぼ同世代である)グアスタビーノは、ちょうどヒナステラと対照的で、ロマンティックな調性音楽を数多く残した。管弦楽や器楽、室内楽、合唱など、多くのジャンルを手掛けたが、最も多く有名なのは声楽曲である。日本でグアスタビーノがそれほど有名にならない理由には、スペイン語の声楽曲がメインだからというのもあるだろう。
ということで、スペイン語の声楽曲を紹介したい。「鳩のあやまち」(Se equivocó la paloma)、なんとも特徴的なタイトルが目を引く。哀愁漂う、民謡のような旋律。詩はスペインの詩人、ラファエル・アルベルティ。歌詞と訳はこちら
一般的にピアノ伴奏で歌われるが、元は「アルゼンチン組曲」というバレエのための組曲の第2曲で、1941年作曲。オーケストラ伴奏に女声合唱が入り、メゾ・ソプラノが歌う。
歌詞を見ればわかるように、失恋の歌と捉えて良さそうだ。アルベルティの描く情景は素朴で誰にでもわかりやすい美しさを持ち、グアスタビーノの付けたメロディもまた多くの人に喜ばれるような、シンプルで耳に残るものである。結果、大衆受けの良い人気作となり、多くの音楽家たちに愛される曲となった。
元の詩には「鳩はまちがった」という言葉はスタンザの頭にしかないのだが、グアスタビーノは曲を付ける際に、フレーズ終わりに「まちがった」(se equivocaba)をリフレインとして入れた。それが実に効果的である。


特に深い考察もなにもないので、演奏をいくつか紹介しよう。日本におけるこの曲の知名度を高めたのはホセ・カレーラスのPHILIPS盤と、ヴィオラ奏者キム・カシュカシャンによるスペイン歌曲のヴィオラ編曲盤(下にリンクあります)だろう。これらを通してこの曲を知る人がほとんどではないだろうか。
ちなみにスペイン語圏ではどうかというと、1969年にシンガーソングライターのジョアン・マヌエル・セラートが取り上げたことで一気に認知度が上がった。ポップス寄りのミュージシャンにも愛されているようだ。
スタンダードな歌とピアノ伴奏による演奏は数多くあり、かつては日本では入手困難なものも多かったが、今は男声、女声ともに配信でバンバン聴ける。「グアスタビーノ歌曲集」として「鳩のあやまち」以外にも聴けるものとしては、ヘスス・スアステというバス・バリトン歌手による音盤など。「アルゼンチン国民楽派」とも言えるグアスタビーノの歌曲を数多く楽しめるのでオススメだ。
メゾ・ソプラノのデジレ・ハラクは、ジェラール・スゼーやエリー・アーメリングの伴奏を務めた名伴奏ピアニストのダルトン・ボールドウィンと組んで録音したグアスタビーノ作品集を出している。伴奏ピアノにも注目してもらえれば、実はグアスタビーノがピアノ作品も素敵だということがわかっていただけるだろう。なおピアノ独奏アレンジの「鳩のあやまち」も存在する。
また、テノールのラウール・ヒメネス、バリトンのヘラルド・ガルシアサーノ、ソプラノのテレサ・ベルガンサやアガーテ・マーテルも多くの作品を録音している。まずは自分の好きな声域で「鳩のあやまち」を聞いてもらうといいだろう。
音盤はあまり見当たらないが、スペイン語圏の合唱団はよく無伴奏の混声合唱で歌っているようである。これも良い。また、ギター伴奏もよく合う。アルベニスやモンポウを彷彿とさせる。


さあ、ここからがコアな話だが、実は僕が「鳩のあやまち」を知ったのは、カシュカシャンでもカレーラスでもなく、なんと原曲の「アルゼンチン組曲」からである。何年も前なのでもはやどうやって入手したのか覚えていないが、ニコラス・ラウスという南米を拠点に活動する指揮者(あまり情報がないが、東京音大主催のイベントで来日もしているようだ)がロザリオ交響管弦楽団と録音した音盤にあり、マリア・デ・ロス・アンヘレス・カンポーラというメゾ・ソプラノが歌っている。
また、フォルクローレを現代風にアレンジして歌う歌手リリアナ・エレーロによる「鳩のあやまち」も収録されていた。
やはりオーケストラ伴奏だと、グッとクラシック音楽っぽさが増す。出会うチャンスがあればぜひこちらもオススメしたい。グアスタビーノの管弦楽作品についても、またの機会に書いてみようと思う。

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Author: funapee(Twitter)
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