モーラン 弦楽四重奏曲第1番:秋に聴きたいカルテット

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Violin Sonata in E Minor / String Quartet a Minor


モーラン 弦楽四重奏曲第1番 イ短調


秋に聴きたい交響曲というタグがTwitterで話題に上り、ブラームスやドヴォルザークなどが順当に名を連ねるのを眺めながら、僕も少し考えてみた。最初に思い浮かんだのがクララ・シューマンのピアノ三重奏曲だった。もはや交響曲ですらない。でもこの曲の哀愁漂うメロディは肌寒くなった季節の空気にとてもよく合う。学生の頃は、iPodで聴きながら木々の色付く公園を散歩したりしたものだ。そのうちこのブログでも取り上げましょう。
メランコリックなメロディは秋にぴったりだし、僕はやはりオーケストラの壮大な音楽よりも、室内楽や器楽、歌曲などの、じんわりと胸に沁みる音楽が、秋になると聴きたくなる。
ということで、どこか物寂しくなる今の季節にちょうど良さそうな曲を取り上げよう。アーネスト・ジョン・モーラン(1894-1950)というイギリスの作曲家の弦楽四重奏曲第1番である。
王立音楽大学でスタンフォードに学び、間もなく第一次大戦が始まってしまい戦地に赴くが、戦後は大学へ戻りアイアランドに師事した。
室内楽は彼の代表的な作曲ジャンルで評価も高かったが、今それほど有名でないのはなぜだろう。考えられる理由としては、民謡に基づいた室内楽でヴォーン=ウィリアムズと作風が酷似しているという点と、ヴォーン=ウィリアムズは保守的ではあるが、それでも鋭い音楽性を発揮した交響曲を多く残したのに対し、モーランは時代遅れと見なされる作風から脱却できなかったから、というのがあるのではないだろうか。もちろん、交響曲などはまたちょっと違った表情の音楽であり、当時それなりに評価はされていたようだが。
以前、僕はヴォーン=ウィリアムズの幻想的五重奏曲について記事を書いた(もう10年も前のことだ)。モーランのカルテットの雰囲気はそれとかなり似ている。幻想的五重奏曲だって十分田舎らしい曲だと思う。しかしモーランはさらに角が取れた円やかな空気を纏っている。


1921年に作曲され、ベルギーのヴァイオリニストで、ロンドンにてアライド弦楽四重奏団を結成したデジレ・デフォーに献呈された。3楽章構成で20分程度。
1楽章、チェロの哀愁に満ち満ちた低音の旋律で始まる。イギリス民謡の旋律、リズムが心地よい。わかる人なら聴いて即、ヴォーン=ウィリアムズを思い浮かべるだろうし、そうでなければラヴェルの弦楽四重奏曲などと近い雰囲気かもしれない。メロディの裏にしばしば現れるトレモロの伴奏も、秋に相応しい肌寒さを描き出すようだ。
2楽章はアンダンテ、冒頭の主題提示はヴィオラによる。すぐに第1ヴァイオリンに引き継がれるのだが、その惜しさがセンチメンタルである。言い過ぎだろうか。主旋律の隙間を埋めるように、誰か1人だけ三連符を弾いているところがまた堪らなく愛おしい。
3楽章はロンド楽章。ロンドン生まれだがアイルランド系であるモーランらしい、8分の6と4分の3のダンス。シンプルに、かっこいい。緩急もあるが、決して攻撃的でないところが良い。品が良いというのとはまた違うが、矩を超えない控えめなところに魅力を感じる。クライマックスは興奮するが、これもやり過ぎない。
半音階的でロマンティックで、音楽史で見てもトーナルミュージックの最終章に位置するのだろうが、じゃあアーノルド・バックスと比べたらどうかというと、やはりそこまで尖らないのが、良くも悪くもモーランの音楽なのだ。
「民謡の再構築」以上でも以下でもない、と言い切ってもいいかもしれない。そこにはヴォーン=ウィリアムズやバルトークがたどり着いた極地を見ることはかなわない。逆に言えば彼らは年中聴ききたいでしょ。モーランのこの曲は実にエモーショナルだ。モーランは劣っているか? いやいや、君がどう聞くか、だ。だから敢えて言おう、秋に聴きたい。凍える日々が近づき、人の心にすきま風が吹く季節に。

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