ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番&第3番


ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30


ベートーヴェンはラズモフスキー・セットで弦楽四重奏曲の世界を「より大きく、より深く」拡大させた。この偉業は音楽史的にもある種のパラダイムシフトであるが、古典派ならではというか、さすがベートーヴェンというか、スケールの大きな話である。
時代はロマン派の後期、チャイコフスキーの伝統を受け継いだロシア・ロマン派音楽の最後の大物、ラフマニノフが書いたピアノ協奏曲第3番は、大ヒットした前作第2番のアップグレード版とも言える作品だ。最難関のピアノ協奏曲とも言われ、テクニックはさらに複雑で至難になり、曲全体もより綿密な内容で洗練された書法を用い、演奏時間も40分超え、ついでに言えば第2番ではハ短調だったのが1つ上がってニ短調になっている。
ラフマニノフが1909年に行ったアメリカ演奏旅行で、自らが独奏を務めて演奏するために作曲したもの。交響曲第2番を作曲していた頃(1906-08年)に作曲を始め、ドレスデン滞在中や渡航先のアメリカでも作業し、1909年9月に完成した。
初演はラフマニノフ独奏ウォルター・ダムロッシュ指揮ニューヨーク交響楽団、翌年1月16日にはマーラー指揮のニューヨーク・フィルとも演奏した。ラフマニノフ自身の録音も残っているので、興味のある方はぜひ聴いてみていただきたい。
音楽におけるロマン主義を主情主義のようなものと捉えれば、ロマン派音楽における「より大きく、より深く」というのは、技術的には和声が拡大する一方で、内容としてはいっそう個人の精神の内へ内へと突き詰めて掘り下げていくようなものだと思っている。反田恭平がインタビューで「この曲は作曲者自身が鬱であった“過去の自分”と、鬱から脱却した“現在の自分”、“2人”というのがキーワードだと思うんです」と語っていたが、やはり結局はそういうプライベートな領域の音楽として解釈するのがベストに違いないのだろう。
ラフマニノフは第2番から第3番で音楽を確実にアップグレードさせた。だが今でもより一般受けするのは第2番である。誰がどう聴いても美しいメロディなどは第2番に続き第3番にもあるが、やはりどうしても、この曲を楽しむには、聴く我々の方も、ラフマニノフと一緒にアップグレードしないといけない気がする。
第3番の解説などにはよく「第2番と並ぶ人気作」と書かれる。元々相当のピアノ好きであったり、ラフマニノフ好きでもない限り、第2番より第3番に一気にハマったぞという人は少ないのではないだろうか。偉そうなことを言うつもりはないが、この文章に触れたことで、これからラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴く人が、ちょっとでもアップグレードしたなら幸いでございます。


あのインパクトのある第2番の冒頭に比べると、第3番の冒頭は非常にシンプルだ。逆に難しいと言える。オクターブの第1主題をどう弾くのか。それを楽しみにするだけで、聴く前からワクワクが止まらなくなる。第2番ももちろん楽しみだが、こちらの方はある程度決まりきっているというか、何というか、「つまならく聴こえるリスク」は少ないだろう。よりいっそう奏者あるいは指揮、オーケストラのセンスが問われるのは第3番の方だ。ラフマニノフ自身は、意外と早めのテンポではあるが、やはりそこは再現部も含めて、ルバート気味に歌っている。
なにより第1楽章はカデンツァの魅力がすさまじい。圧倒的なピアノ。協奏曲で、オーケストラの音に挟まっているからこそ、この重厚な音の塊としてのピアノの魅力が発揮されるのだ。
まずカデンツァに入る直前の、揺らぐ弦奏とピアノのしずかな溜息が素敵だ。より難しいオッシア(あるいはという意味の、選択可能なフレーズのこと。大カデンツァとも)か元のもの(小カデンツァ)か選ぶことになるが、技術的に厳しかった当時と違い、今はオッシアでも余裕で弾く人の方が多いので、どちらを聴かせるのかも奏者のセンスによる。もちろん技術的に弾けるけど小カデンツァを弾く人もいる。どちらにせよ、非常に高度な技術を見せつけられることには違いない。ピアノの音色の洪水に溺れよう。
カデンツァ前半が終わると現れるフルートも美しい。ピアノのアルペジオとの重なり。次いでオーボエ、クラリネットと現れる、ここが大変に美しい。ホルンもね。
カデンツァ後半の可憐さ、前半の重量ある攻撃的な音といいコントラストだ。ひたすらに美しい。その美しい時間を、ふと我に返させるような再現部。オケの序奏が再び。ああ、そうか、いつもの辛い日常だった。あれは夢だったのか。なんて。
2楽章も泣けるコード進行や弦とピアノでしっとり聴かせるだけの緩徐楽章ではない。ここも密度が増している。逆に、増してしまったがために一般受けはなくなり、聴く側のアップグレードが必要になったのだが。僕個人としては、ラフマニノフのピアノ・ソナタを聴くときのような良さを感じる瞬間が多い。ということで、ぜひソナタの方も聴いてみたください、よろしくお願いします。独奏曲に、それをアップグレードするオーケストラの鎧を纏ったようなサウンド。それが徐々に盛り上がり、誰もが待ち望む「ピアノ協奏曲の緩徐楽章といえばこれ!」と思わせる強烈なロマンティック路線へと移行していくのは神がかり的だ。
3楽章、和音の連続による推進力のすごさ、最後はパワーで行くのかと思えば、今度はとてつもないエモいコードが幅を利かせる。これが泣きのラフマニノフ、強い、強いぞ。その後のピアノはリズムも求められる。リズムをどう聴かせ、表現するか。特にオブリガートになったときのピアノは、かえって聴きどころだ。メインを張らないときのピアノがまた繊細で精密に作られているのだから。そこをどう表現するのか、これは終楽章だけでなく通してそうなんだけれども、特に動きの激しい3楽章は注目したい。
第2番より多少とっつきにくいかもしれないが、アップグレード版と言ったのは、こちらも対応すればそれに応じていっそう楽しめる懐の深さもあるということだ。聴けば聴くほど味が出る。僕もまだまだアップグレードしていきたいと思いますね。

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