スラットキン カルメンズ・フーダウン:カルメン、ハリウッドへ行く

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F・スラットキン カルメンズ・フーダウン


ビゼーの「カルメン」の主題を用いた編曲作品は数多く存在する。あなたの「推しカルメン」は何ですか?
もちろん「アレンジよりも元のオペラが一番!」という人が多数派だろうが、今回はアレンジの話。王道はやはりサラサーテの「カルメン幻想曲」、そしてワックスマンの「カルメン幻想曲」、この辺はヴァイオリン愛好家ならみんな大好きでしょう。
もはや「カルメン幻想曲」(カルメン・ファンタジー)は1つのジャンルを成し、吹奏楽をはじめ少人数アンサンブルのためのアレンジが無数に存在する。さすが人気作品。
ピアノが好きな人ならブゾーニやホロヴィッツのものがあるし、先日他界した指揮者マリス・ヤンソンスが2012年のニューイヤー・コンサートで取り上げたエドゥアルト・シュトラウスの編曲「カルメン・カドリーユ」も楽しい作品。
また、シチェドリン編曲の「カルメン組曲」も、最近ロシアだけでなく国内でも取り上げられる機会が増えてきたように思う。多少ひねくれたオタクたちには嬉しい風潮かもしれない。


ということで、僕の「推しカルメン」を紹介したい。フェリックス・スラットキン(1915-1963)のCarmen’s Hoedown(カルメンズ・フーダウン)である。
指揮者レナード・スラットキンの父であり、ハリウッド弦楽四重奏団の創設者であるパパ・スラットキンは、ヴァイオリニスト・指揮者・作曲家としてハリウッドを中心に活躍した。ハリウッド・ボウル響やコンサート・アーツ管と共に映画音楽はもちろん、クラシックのレパートリーの録音の他に、スラットキンはリバティレーベルのために軽音楽を録音している。
「カルメンズ・フーダウン」もジャンル分けすれば軽音楽であり、1963年“The Fantastic Strings Of Felix Slatkin”名義でリリースされた“Fantastic Strings Play Fantastic Themes”というLPに収録されている。他にもドヴォルザークの「新世界より」ベートーヴェンの「英雄」や「エリーゼのために」、チャイコフスキーの「悲愴」や「ヴァイオリン協奏曲」などが、イージーリスニングに編曲されている。それらも楽しい編曲だが、やはりカルメンは頭一つ抜けて傑作アレンジのように思う。


フーダウン(Hoedown, ホーダウンとも)は、スクエアダンスで用いられる速いフィドル音楽が元祖と言われ、カントリーミュージックの用語ということになっている。とすると、この曲名は「カルメン・カドリーユ」と非常に近いものということになる。ざっくり言うと「踊れるカルメン」という感じである。
今でHoedownで調べると、コープランドの「ロデオ」の中のホーダウンという曲(これは人気曲であり知っている人もいるだろう)か、それを基にしたエマーソン・レイク・アンド・パーマーのHoedownが出てくるくらいだろう。
「カルメン・フーダウン」も、開始早々カントリーフィドルの世界へようこそ、弓をブンブン振り回していそうな、高音低音バチバチ弾いたるぞとイキリフィドラーの登場である。
馬もパカラッパカラッと走っている。グッド・オールド・アメーリカ、厳密に言えばカントリーミュージックは西部劇のイメージと関係ないのだが、ここはハリウッド、描かれるテキサス。ドン・ホセもスニガも保安官と呼ばれている、いや知らんけど。
ティンパニのグリッサンドも、カウベルやラチェット、ウォッシュボードの音など、打楽器群もいい味出してる。ハリウッド仕込みの楽器使用、パパ・スラットキンお手の物。
フルオーケストラでオールドタイムなフィドル弾き、快速テンポで駆け抜けるカルメン前奏曲は愉快痛快、フィルインで入る細かいパーカッションも楽しい。
バンジョーも顔を出す。ライブではシロフォンなどで代用される。クライマックスの大オーケストラ的な虚勢を張る金管、そしてあの終わり方。「ひげ剃りとカット25セント」(Shave and a Haircut, Two Bits)というやつである。この呼び方を知らない人は検索してね。


息子レナード・スラットキンにとっては重要なアンコール・レパートリーである。というかスラットキン以外がやっているのを知らない。色々な所でアンコールに時々やっているようである。かなりスットボケな雰囲気の曲なので、メインプログラムの曲に応じて選んでいるのだろうし、このための楽器準備もリハも結構必要だろうが、僕は幸いにも来日公演で聴くことができた。メインは幻想交響曲で、アンコールにカルメンの普通の間奏曲をやったあとでカルメン・フーダウン。
カルメンの元祖であるフランス系のオケや指揮者がカルメンの曲をアンコールでやるのはよくあるし、フェイサル・カルイがラムルー管とやったときは、聴衆に手拍子を求め、音楽と手拍子が鳴っている間に客席に向かって投げキッスして先に帰るという伊達男演出で印象に残っているが、ハリウッド風カルメンも忘れがたい経験として思い出に残っている。
「カルメン、ハリウッドへ行く」(Carmen goes to Hollywood)はスラットキンがアンコール前に語ったこの曲の紹介である。皆さんもぜひ、推しカルメンに加えてやってください。

Fantastic Strings Play Fantastic Themes

Emerson, Lake & Palmer TRILOGY


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