アディンセル ワルソー・コンチェルト:協奏曲の伝統、その2

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アディンセル ワルソー・コンチェルト(ワルシャワ協奏曲)


この「協奏曲の伝統」という副題は、2011年9月にバルトークの記事を書いたとき以来である。いつも副題には悩むので、まああまり気にしないでいただきたい。
Twitterで「秋に聴きたいコンチェルト」というタグがあり、少し考えてみた。ついブラームスに手が伸びてしまうし、以前ブログでも秋にぴったりだと書いたショーソンの「詩曲」も準コンチェルトであり良いのけども、そう言えばこれもあったと思い出したのが、アディンセルの「ワルソー・コンチェルト」である。ワルシャワ協奏曲とも呼ばれる。
前々からいつかブログで紹介しようと思っていたのだけど、そう思いつつ10年以上経ってしまった。
というのは、実はこの曲については個人的に未解決の謎があり、それが解決したら堂々とここで書こうと思っていたからだ。しかし全く解決しそうにないので、もう書いちゃう。


その謎に触れる前に、ざっと概要を説明しよう。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を模して作られた映画音楽であり、イギリスの作曲家リチャード・アディンセル(1904-1977)の最も有名な曲だ。
「戦雲に散る曲」(Suicide Squadron)、またの名を「危険な月光」(Dangerous Moonlight)という、1941年の映画のための音楽。パイロット兼ピアニストの主人公はこの曲を作曲したという設定で、特攻隊としてドイツ軍に攻撃して負傷するのだが、かつて「ワルソー・コンチェルト」を作ったことを病院で思い出して語りだす……というような話らしい。僕はこの映画を見たことはない。
映画の制作スタッフはラフマニノフ本人に音楽の提供を依頼したが、交渉はまとまらず、結局アディンセルが作ることとなった。アディンセルはラフマニノフのスコアとにらめっこして、またアシスタントの作曲家ロイ・ダグラス(1907-2015)と共同で曲を仕上げた。ダグラスはヴォーン=ウィリアムズやウォルトンの助手も務めた人物である。


映画の中では3楽章構成の作品として、プログラムが映るシーンがあるのだが、実際このときは映画で使われた1つの楽章しか作られていなかった。そしてこの曲は爆発的な人気が出て、多くのレコードが世に送り出される。10分未満の程よい長さで、ラフマニノフ風の強烈なロマンティシズム、哀愁あるメロディ、ドラマチックなピアノとオーケストラの展開は、軽音楽としても都合が良かったのだろう。
その分、真面目なクラシック音楽作品としてはあまり見られていなかったと思う。映画音楽だしね。アディンセルは映画や白黒テレビのための音楽を多く残し、どれも非常に楽しい名曲である。今は配信でも気軽に聴けるので、ワルソー・コンチェルト以外にも色々聴いてみていただきたい。「チップス先生さようなら」や「トム・ブラウンの学生時代」など、どれも本当に素晴らしい。


さて、最初に話した「謎」についてだけども、ここから先は明確なソースではなく、全て僕の個人的な記録と伝聞によるものなので、その点はご了承いただきたい。
この曲は映画公開の時点では単一楽章のみ出来ていたようだが、どうやら3楽章フルであるようである。おそらく、人気作品になったので、ぜひフルで書いてくださいという話があったのではないかと想像している。
フルであるようである、と言ったが、実は3楽章あるmp3音源を僕は所有しており、1楽章がRhapsody、2楽章がDream、そして3楽章がEscuad Suicidaと書かれ、この第3楽章Escuad Suicidaが、一般的に言われるワルソー・コンチェルトである。Escuad Suicidaは決死隊、スーサイド・スクワッドという意味であろう。
第1楽章と第2楽章も、第3楽章に負けず劣らずのロマンチック、3楽章は哀愁が強いけれども、1楽章はもっと甘美で、2楽章の緩徐楽章も、いかにもロマン派のピアノ協奏曲である。
この3楽章版の音源は知人からいただいたものだが、もうその知人は亡くなってしまったので、詳しい話を聞くこともできない。その音源のタグにはスペイン語が書かれているのと、1950年オリジナル版という説明、そしてバレンボイムとアバドと書かれている。
バレンボイムとアバドが関わっていることは嘘だろうが、1950年版というのは、どこにもソースが見当たらないがありえない話ではない。後に他の楽章を作曲したのかもしれないが、インターネット上では情報は見当たらない。
なぜスペイン語が書かれているのかも謎だし、もしかすると“Escuad Suicida”も本当は英語やポーランド語表記だったのかもしれない。何しろ大量のレコードがあるため、もしかしたらその中のどれかは3楽章全ての録音があるのかもしれない。


ラフマニノフのパチもん、なんていう印象で終わってしまうこともあるワルソー・コンチェルトだが、きちんと全編通して聴くと、うーん、立派なラフマニノフのパチもんである。元も子もないこと言ってしまった……。この曲のクライマックスは冒頭回帰で終わるのだが、なんかちょっと物足りない気がしちゃうのは、これだけラフマニノフ風にやられると我々はどうしても「ラフマニノフ終止」を欲してしまうのかもしれない。ジャンジャカジャン!で終わってほしい、なんてね。やっぱり意味あるんだよ、ラフマニノフ終止には。
でもラフマニノフを知らなければ、そんな文句も出ないだろう。冒頭のあのピアノのインパクトは凄い。ダサい、やり過ぎ、下品……その通りだと思うが、実は1楽章や2楽章の方が品があって素敵だなあと思う。それがあっての、あのお涙頂戴コンチェルトか、と思えば、まあ納得できるというものだ。


正直、フル版を多くの人に聴いてほしい気持ちもあるし、アディンセルのワルソー・コンチェルトは実はこんなにロマンチックな音楽の第3楽章なんだぞ!と、大声で言いたい。伝統的な構成であることを紹介して(一応映画の中でも3楽章あるからね)、この曲にも箔を付けてあげたいのだ。ただまあ、ここで書くのが限界である。最近は、そういうレアな音源や映像もすぐYouTubeに上がるが、著作権切れてなければ普通に違法なので。
ということで、この謎に関する情報をお持ちの方はぜひお寄せください。いつか正規盤で登場することを祈っています。まあ、その前に誰かがYouTubeに上げちゃうかもね。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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