ロパルツ ヴァイオリン・ソナタ第1番:天と地と、祈りと踊りと、音楽と

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ロパルツ ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ短調


ジョゼフ=ギィ・ロパルツ(1864-1955)、20世紀初頭のフランスを代表する作曲家のひとりであり、文筆活動や指揮や教育にも力を入れた人物。作曲家としても幅広い編成・楽器のための作品を残しており、スコアや録音もそこそこ出回っているので、音楽鑑賞が趣味でマイナー作曲家を漁るのが好きな人だけでなく、楽器演奏が趣味の人にも知られているかもしれない。
僕も交響曲などいくつか作品を聴いてはいたが、今回取り上げるヴァイオリン・ソナタは、実は昨年初めて聴いて好きになった曲だ。デュオ・アールデコ・ウィーンによるプーランクのヴァイオリン・ソナタの新譜を聴こうと思ったら、1曲目にロパルツのソナタ1番がカップリングされていて、良い曲だなと思った。
ブルターニュの街ガンガンに生まれたロパルツは、パリ音楽院でデュボワに和声を、マスネに作曲を習い、マニャールとダンディと親交を深めた。ダンディとの交流をきっかけにフランクの作曲クラスに転向し、このヴァイオリン・ソナタからもフランクの影響を見て取れる。
1894年、ロパルツは30才でナンシー音楽院の院長を任される。そこで彼は地域の音楽文化の発展に貢献したそうだ。音楽院の学生オケで自作曲を指揮したり、ラロ、ダンディ、フランク、ショーソン、マニャール、デュカスらのフランス音楽家の作品を取り上げてロパルツ自身の分析や解説をプログラムに載せたり、また地元の無名な作曲家の作品を国際的に有名な音楽家たちと演奏するなど、ナンシーの演奏会事情はここで非常に充実したものになった。
フランス音楽だけでなく、1899年には当時パリで滅多に演奏されなかったベートーヴェンの第九をアマチュア歌手たちと共に演奏しサル・プレイエルを満席にしたり、1902年にはフランスでは初となるバッハのヨハネ受難曲の完全演奏をナンシーで行い、当時はパリからの「遠征勢」とも言える音楽ファンがナンシーに駆けつけたそうだ。
その後にストラスブール音楽院の院長を務め、晩年は故郷ブルターニュに隠居した。ということで、ロパルツの音楽には故郷ブルターニュの音楽、第二の故郷とも言えるアルザス・ロレーヌの音楽も関連している。
別に僕はその辺の地域に根付くものに詳しいわけではないが、素朴な民族音楽というよりも、もっと学究的であり、思惟的とも思われる魅力がある。1907年に作曲されたヴァイオリン・ソナタ第1番は多分にフランクの影響を感じる、後期ロマン派音楽らしい作風だ。


3楽章構成で25分ほどの長さ。ロパルツと生涯の友人であったベルギーのヴァイオリニスト、イザイに献呈された。初演は1908年、イザイのヴァイオリンとプーニョの伴奏による。
1楽章のLento – Allegro moderato、ピアノのオクターブよる長い序奏から始まる。エオリアン、これは祈りか瞑想か、どことなく教会の鐘の音を想起させる……というのが正しい鑑賞態度だろうが、僕はこれを聴いて「金襴緞子の帯しめながら、花嫁御寮は何故泣くのだろ」と思い浮かんだ。この冒頭だけでなく、曲全体にちょっとペンタトニックな響きがあり、イギリスの作曲家のクラシック音楽からも感じるような、どこか日本風の懐かしさを感じてしまう。
とはいえ、アルペジオの伴奏に乗って歌われるヴァイオリンの旋律は、フランク、あるいはラヴェルの音楽が好きな人の琴線をくすぐることだろう。巧みな調性の外し方と、感動的な、今風に言えば「エモい」展開。
2楽章のLento – Adagio espressivo、循環形式、再びピアノによる主題の提示が、今度は転調して和音になっている。渋さと甘さのバランスのとれた配分。甘い旋律にどっぷり浸るという訳にはいかないが、美しい緩徐楽章である。
その2楽章から途切れなく入る3楽章Allegro molto vivace、2拍子+3拍子の変拍子から始まる激しいリズム、また息の長い旋律が出てきたりと、場面はコロコロ変わるものの常に統一感があるというのが、フランク一派の音楽の特徴だろう。終盤には、鐘の音風の主題は、低音を含んだピアノの大きな和音になって回帰する。これがファンにはたまらないのだ。曲の終わりにも注目してほしい、こういうのがロパルツらしさだと思う。
ロパルツの弟子である作曲家、フェルナン・ラミーは「ブルターニュでは祈りの後に踊ることを惜しまず、お祭り騒ぎと宗教的な祝事とは切り離すことができない」と書いている。なるほど、そういう文化は世界各国にありそうだが、ここではそんな生活に根ざしたカトリック信仰も音楽に影響しているのだろう。まあまあ、花嫁人形が出てきちゃったのも、当たらずとも遠からずということで、良いんじゃないでしょうか。


ナンシーでの活動やこのソナタを鑑みても、ロパルツの「地域の人々に音楽のある生活を」とか「神聖なる音楽と大衆的精神」とか、そういう考え方が見えてくるように思う。この小さな室内楽は、そんな奥深いものがコンパクトに表現された、静謐な美しさと色彩豊かな和音、多様な構造を持つリズムに満ちた傑作だと思う。


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Author: funapee(Twitter)
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