コープランド 市民のためのファンファーレ:命の大切さの肯定

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コープランド 市民のためのファンファーレ

2021年3月29日、ニューヨーク・フィルの公式YouTubeチャンネルで、コープランドの「市民のためのファンファーレ」の動画がアップされた。デイヴィッド・ロバートソン指揮、ニューヨークの聖バーソロミュー教会で2021年1月に撮影されたものだ。COVID-19に対しその最前線で戦っている医療従事者らエッセンシャルワーカーのために、とのこと。
この動画は今日(4月7日)現在で4万再生を超えており、往年の巨匠とかそういう名曲名盤の類を除けば、クラシック音楽としてはかなり多い方である。
コープランドの「市民のためのファンファーレ」を選んで演奏、録音録画したニューヨーク・フィルはさすがだ。日本語訳の定訳としては「市民のためのファンファーレ」だが、原題は“Fanfare for the Common Man”、この“Common Man”という部分、ここが非常に重要である。
“Common Man”は、市民と訳しても間違いではないが、ニュアンスとしては普通の人、並の人、凡庸な人、肩書のない人という意味であり、社会的・政治的・文化的エリートと比較した際の平均的市民ということである。
かつては日本でも「庶民のためのファンファーレ」などと訳されていたこともあったそうだ。庶民と言ってしまうとコンサートでは格好がつかないかもしれないが、本来はそちらの方が近い意味だろう。
ニューヨーク・フィルは、コープランドがこの曲名にした理由は「戦争や軍隊で汚れ仕事をしているのは結局のところ“Common Man”だから」と動画の説明に書いている。まさに今、コロナ禍において最前線で戦っている全ての“Common Man”に捧げられるファンファーレである。4分弱の動画、ぜひご覧いただきたい。

もう少し、この曲について書いておこう。
コープランドがこのファンファーレを作曲したのは1942年、第二次世界大戦中であり、指揮者ユージン・グーセンスの委嘱による。グーセンスは第一次大戦中にイギリスの作曲家にファンファーレを依頼したところ出来が良かったので、今度は18人のアメリカ人作曲家に声をかけてファンファーレを募った。
戦時中のファンファーレとなれば、当然、国威宣揚であったり愛国心の高揚という方向になる。コープランドのファンファーレは多くの人が「かっこいい!」と思う出来栄えであり、18曲の委嘱ファンファーレの中で現代でも演奏されるのはコープランドのものくらいだ。自身も後に交響曲第3番で引用している。
ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、打楽器。勇ましく、軍隊の出撃のような力強いファンファーレだが、これはあくまで“Common Man”のためのファンファーレ。
このタイトルのおかげもあってか、アメリカでは軍関係以外の様々な場面、テレビや映画、ポピュラー音楽のコンサート、オリンピックなどのスポーツ大会、そうした「市民のため」として用いられきてた。
曲名について、グーセンスが提案した「兵士のためのファンファーレ」をはじめ、コープランドは様々な候補を考えていたそうだが、決定打になったのは、当時のアメリカ副大統領、ヘンリー・ウォレスの演説である。1942年5月、“The Century of the Common Man”という有名な言葉を含むことで名高い演説を聴いて、コープランドは曲名を決めたそうだ。
20世紀は「庶民の世紀」であるべきで、庶民が自ら自分の産業を作り、自らの生産性を高め、自分や子供たちが受け取ったすべてを最終的には世界に受け渡すことができる。軍事的、経済的な帝国主義であってはならない。といった内容の演説であった。
コープランドは1942年4月に「リンカーンの肖像」という朗読と管弦楽のための作品を完成させている。これは「人民の人民による人民のための政治」で有名なゲティスバーグ演説をテキストとして用いた作品であり、「市民のためのファンファーレ」も合わせて、アメリカ民主主義と強い関わりのある音楽を作った時期と言える。

本当に称えられ、祝福され、感謝されるのは“Common Man”であるということを、コープランド自身は強く感じていたに違いない。
「私の音楽は、悲劇的に響くときでさえ、人生の肯定であり、命の大切さの肯定であると私は考えている」
このように、コープランドは自分の音楽人生を振り返って語った。このコロナ禍で僕もふと思うのだ、あまりにも命の大切さが蔑ろにされてはいないか、一人ひとりの市民の、庶民の人生が否定されてはいないか……。
すべての“Common Man”のためのファンファーレは、音楽に人生の肯定、命の大切さの肯定を求め続けた作曲家からのエールである。


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Author: funapee(Twitter)
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