アルベニス ピアノ・ソナタ第5番:論理の中の多様性への前奏曲

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アルベニス ピアノ・ソナタ第5番 変ト長調 作品82

グラナドスの「ゴイェスカス」について書こう書こうと各所で口にしていたが、それより先にアルベニスを書いちゃうという……昨年もピアノ協奏曲についてブログに書いた今年も書こう。
ピアノ協奏曲の記事でも最後に触れているが、代表作はやはり「イベリア」に違いないのだけど、もう1つ、先のピアノ協奏曲と同年である1887年に作られた曲、ピアノ・ソナタ第5番も推して推して推しておきたい。
アルベニスの創作活動を大きく3つの時期に分けるとしたら、サロン風の作品や伝統的なドイツ古典音楽に倣った書法の初期、スペイン風の影響が強く出始めて多くの曲を書いた中期、そして彼の創造力の結実である「イベリア」等を残した後期ということになるが、1887年というのは大体中期と後期の境目くらいと言うことができる。
アルベニスにスペインの伝統音楽を啓発した教師、フェリペ・ペドレルには1883年に学んでおり、その影響ももちろん楽曲には現れているが、こと「ソナタ」や「協奏曲」という構造を持つ音楽においては、民族風以上にいわゆるクラシック音楽の古典派・ロマン派の伝統が前面に出ている。いや、前面は言い過ぎかな? しかしそこに往年の巨匠作曲家の影を見出すのは容易だ。
アルベニスのソナタは全部で7曲あり、第1番と第7番が未完で残っており、第2番と第6番は紛失。完全な形で残っているものは第3番、第4番、第5番の3曲のみ。
今年1月にマドリッドのフアン・マルク財団の公演で、スペインの名ピアニスト、ミゲル・イトゥアルテのライブ配信があり、そこではベートーヴェンの月光ソナタと、アルベニス、ポウェル、アダリッドというスペインの作曲家3人のソナタが演奏された。そこでもアルベニスの5番が取り上げられており、地名付きの曲ばかり目立ってソナタが顧みられないアルベニス作品を、絶妙な文脈で取り上げていることに感心してしまった。

そもそも、1870年代から80年代にかけては、アルベニスはコンサート・ピアニストとしても活躍しており、バッハ、スカルラッティ、ヘンデル、クープラン、ラモーなどを得意としていたそうだ。今では普通のことだが、17,18世紀の作品演奏は当時のスペインでは珍しい方だった。特にバッハ解釈にも優れていたとされ、1899年にナンシーで行ったブランデンブルク協奏曲第5番の演奏会後、ナンシー音楽院の院長には「比類のない解釈」と評されたという。
またハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンのソナタも多く取り上げており、そうした志向はアルベニスのスペイン組曲や古風な組曲、そしてソナタへも影響している。

アルベニスのピアノ・ソナタ第5番は4楽章構成、1楽章が10分近くあるが、通しても20分ほどの長さ。
第1楽章Allegro non troppo、まずなんと言っても、第一主題の美しさに惚れる。別にそれだけではないが、個人的には重要なことだ。展開や和音などを含め、全体の雰囲気はショパンやシューマンのソナタを彷彿とさせる。しかし形式はもっと軽視されており、ずっと自由度は高い。
第2楽章Minuetto del Gallo、詳しいことは不明だが直訳すると「鶏のメヌエット」となる。短いメヌエット楽章は、コケコケと歩き回っているように思えなくもないが、それこそラモーやクープランのような上品さも備えている。実に魅力的だ。
第3楽章Reverie、夢想というだけあってこの世のものではないような美しさ。転調してからのppのフレーズも良い、絶妙な6度、これを異国情緒と言って良いのか知らないけど、感情を揺さぶる旋律。
第4楽章Allegro、軽快でスカルラッティを思わせるアレグロ楽章、実に楽しい。装飾音のついたコン・ブリオの楽想も楽しいし、この楽章が短いのが本当にもったいなくて、もっと聴いていたくなる曲だ。
長い1楽章とスケルツォ的な短い2楽章、長い緩徐楽章に短く軽快な4楽章、この曲全体のプロポーションはショパンのソナタ第3番に似ている。コンサートのメインになるような曲を目指したのだろうか。しかし作曲家自身にとっては、もっと向いている形式があったということなのだろう。

多分アルベニスの特徴として有名なところとしてはロマン主義、モダニズム、国民楽派などだろうか。色々とカテゴライズされる彼は、それらのどれにおいても、「それだけ」という風に把握するのは危うい考え方で、ぜひそこに古典主義もひとつ加えて、非常に複雑な音楽家なんだなと再認識したいところだ。
アルベニスは「イベリア」の作曲に着手する前年である1904年の4月20日、日記に「芸術の適切な形式は、『論理の中の多様性』(variedad dentro de la lógica)だ」と書いた。こうしたモットーを持つに至るには、彼の長年の古典への熱意と研究があったのは言うまでもない。そんなことを頭の片隅に入れてから聴くと、このソナタもいっそう味わい深い。

【参考】
Clark, W. A., Isaac Albéniz: A Research and Information Guide, Routledge, 2015.


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