ルーセンベリ バレエ音楽「街のオルフェウス」:まだまだ探す気ですか、それより

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ルーセンベリ バレエ音楽「街のオルフェウス」

6月21日はスウェーデンの作曲家ヒルディング・ルーセンベリ(1892-1985)の誕生日だった。ちょうど夏至でもあったので、夏至の徹夜祭にかこつけて僕も徹夜で音楽を聴いていた。なんて、嘘です。学生時代は夜を徹して音楽鑑賞したこともあったけど、もうちょっとしんどい。でも少しくらい夜ふかしして音楽を楽しむのも良いね。聴いたのはルーセンベリのヴァイオリン・ソナタ第2番。記事下にリンク貼っておきました。オススメです。
夏至の徹夜祭、お祭りの名称としては日本語では一般的に「夏至祭」というけども、クラシック音楽ではスウェーデンの作曲家アルヴェーンによるスウェーデン狂詩曲第1番「夏至の徹夜祭」が有名だ。TV番組「はねるのトびら」でも使われていた。
アルヴェーンはルーセンベリより20歳年長で、かなり伝統的な後期ロマン派の作風であり、いわゆるクラシック音楽好きは何の抵抗もなく楽しめるだろう。同じくスウェーデンの作曲家で、もう少し別味が好みだと、アルヴェーンと同世代の作曲家であるステーンハンマルを愛好する人も多いことでしょうね。

ルーセンベリはステーンハンマルにも学んでいるが、彼の作風は新古典主義と新ウィーン楽派(というかシェーンベルクの系譜)の折衷と言うことができるかもしれない(なんかね、断定すると頭悪く思われる風潮があるから断定しないでおいてあげるね)。もっとシンプルに言うとアルヴェーンやステーンハンマルに比べてモダンなので、どうしてもクラシック音楽好きからの人気をさほど得られないというのはある。しかし、北欧クラシック音楽のコアなファン以外にも、案外発見されて好かれたりするのは、ひとえにこのFinlandiaレーベルのCDがあったおかげだろう(記事上の画像)。アンドリュー・デイヴィス指揮、ロイヤル・ストックホルム・フィルによる、「街のオルフェウス」組曲とルイヴィル協奏曲、交響曲第3番の録音、僕もこのCDでルーセンベリのことを知った一人である。

元々は鍵盤奏者だったルーセンベリは、指揮者としても活躍。ドイツ、オーストリア、フランスでも音楽を学び、シェーンベルクやヒンデミットとも親交があった。音楽家としてのキャリアのほとんどの時期に、しかも編成もかなり幅広く作曲しており、シベリウスはじめロマン派の影響の色濃い初期作品から、スウェーデンの20世紀音楽を代表するモダニストとしての姿がうかがえる作品まで、今はサブスクで好きなだけ聴ける。便利な時代だ。

さて、本題に入ろう。ルーセンベリのバレエ音楽「街のオルフェウス」(1938)、このバレエは大成功を収め、7曲を抜粋した舞踏組曲は世界中で演奏されるレパートリーとなった。このバレエが完成するまでの話も面白い。ストックホルムのコンサート・ホールに、スウェーデンを代表する彫刻家カール・ミレスの「オルフェウスの泉」というブロンズ像が設置され、1936年7月に除幕された。この様子を新聞の写真で見たロシア人振付師のヴェラ・セーガーは、「オルフェウスがストックホルムの夏の夜、エウリュディケを探しに行く」というアイディアを思いついた。セーガーはストックホルムの裕福な外交官と結婚しており、同年12月にストックホルムのホテルで開催された貧しいロシア系移民のためのチャリティイベントで、このバレエの原型となるものが発表された。そのときに製作に携わっていた王立劇場のバレエマスターだったJ・アルゴは、これをより洗練させるために、ルーセンベリに連絡を取り、製作が始まる。1938年11月19日にストックホルムのオペラ座で初演された。

ストックホルムのコンサートホール。引用元:https://sv.wikipedia.org/wiki/Konserthuset_Stockholm
オルフェウスの泉。引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/Stockholm_Concert_Hall

幕が上がると、ブロンズ像の「オルフェウスの泉」やコンサートホールの正面が見え、さらにはグルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」が上演予定となっているオペラ座も見える。夕暮れ時になると、オルフェウス像やその周囲の像が動き出す。像に扮していたダンサーだったのだ。オルフェウスたちは裸なのでデパートに行って服を着て、エウリュディケの捜索へ出かける。ユールゴーデンに行ったり博物館に行ったり、「そうだ、エウリュディケはオペラ座にいる!」と確信して向かうが、そこにいるのは本物のエウリュディケではなくオペラ歌手。しかし彼女を連れて、二人はナイトクラブへ。そこで舞踏会が始まる。オルフェウスはエウリュディケに、一緒にコンサートホール前の台座に上がってくれと頼むのだが、彼女は突然消えてしまう。朝になると、オルフェウスは元のコンサートホール前のブロンズ像に戻っている。いつも通りの朝、市場では商売が始まっている。あのエウリュディケは偽物だったのか、それともブロンズ像になるのは嫌だったのか……。

という内容のバレエである。ストックホルムのオペラ座では20回近く上演され、その後は7曲を抜粋した舞踏組曲ばかり演奏されている。この舞踏組曲がはじめに紹介したCDに入っているもので、A・デイヴィス以外にも、有名所だとスヴェトラーノフも録音している。
この舞踏組曲が実に素敵で、このおかげでルーセンベリに興味を持ったという人は僕だけではないだろう。ガーシュウィンっぽさも感じるし、北欧らしさもあるし、非常にかっこいい音楽だ。もっとも、これは上の筋書きで言うところの舞踏会のシーンのみなので、バレエ全体の音楽はまた違った印象である。B・トミー・アンデション指揮ロイヤル・フィルの録音(記事下のリンク)があるので、ぜひ聴いていただきたい。
バレエ全曲版でないと聴けない、オルフェウスが目覚めるシーンの悲哀の込められた弦楽の美しさ。これは特筆すべきものだ。他にも独特のリズムや、ちょっと特徴的な透明感のあるオーケストラの響きも良い。また全体において、グルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」をうまく引用しているのも面白さのひとつだ。有名なアリア“Che faro senza Euridice”(エウリディーチェを失って)。
また、オルフェウスらがオペラ座に到着したときには、グルックの歌劇のワンシーンがそのまま聴こえてくる。これは二人が冥界から帰ってくるときの対話のフレーズだ。しかし、すぐにナイトクラブへ連れ出す激しい音楽によってかき消される。そういう小さい演出も面白い。これがあっての、あの舞踏組曲のシーンなのである。
なお舞踏組曲は「時のリズム」、「バーテンダーの踊り」、「少女の踊り」、「黒人の踊り」、「トリオの踊り」、「タンゴ」、「フィナーレ」の7曲。

「街のオルフェウス」のようなライトな雰囲気のものもあれば、ぐっとシリアスな交響曲もある。室内楽にしても何にしても、国民楽派と呼ばれるような方向とは違う、最初に書いた新古典主義や、中央ヨーロッパの近現代の音楽の影響が大きいのがルーセンベリの特徴だ。とかく北欧のクラシックと言えば国民楽派周辺の民族色の濃い音楽にスポットが当てられがちに思うが、こういう音楽もまた楽しい。その上で、あくまでその上での話で、どうにも拭い去れない民族性のようなものを見出すことも可能だと思うし、ルーセンベリの音楽にはそう思わせる何かがある。それを探し求めていくと結局は普遍性にたどり着くのではないかと思ったりもするが、何か「これだ!」と思って掴んだような気がしても、すぐに消えてしまうのだ。そう、まるで……。


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