ダヴ 魔笛の踊り:「魔笛さん」の思い出

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シャルル・デュトワ来日で盛り上がる、2022年初夏の日本のクラシック音楽界隈。数年前はスキャンダルの話題であれこれ言われていたデュトワも、その後のコロナ禍で来日アーティスト激減期間を経て、今再び尊敬すべき巨匠として迎え入れられている、といったところか。僕は聴きに行く予定はないけど、何かデュトワの録音を聴こうと、誰も聴かなそうなゴールウェイとの録音を聴いてみた。ロイヤル・フィルとの1976年11月録音。この「フランスのフルート協奏曲集」、誰も聴かなそうというのは、元は1977年リリースのRCAのLP盤で、サブスク配信では復刻しているもののCDは見当たらず、あまり知名度の高くない録音なのかなと思ったので。プーランクのソナタの協奏曲編曲が入っている。ああ、美しい。


そのプーランクのフルート・ソナタも傑作なのでいずれブログに書こうと思っている。ゴールウェイの依頼でオーケストラ伴奏版に編曲したのは、イギリスの作曲家レノックス・バークリー。録音も多々あり、イギリス生まれのフルート奏者で、コンセルトヘボウ管の首席でもあるエミリー・バイノンのアルバム「イギリスのフルート協奏曲集」に収録の演奏も聴いた(上の大きい画像のCD)。フランスの作曲家によるソナタの、イギリスの作曲家による編曲ということで、「フランスのフルート協奏曲集」にも「イギリスのフルート協奏曲集」にも入っているのは面白い。


さて、長い前置きになってしまった。今回取り上げるジョナサン・ダヴ(1959-)の「魔笛の踊り」は、先のエミリー・バイノンの「イギリスのフルート協奏曲集」に収録されている曲で、当該盤が初録音となっている。
ジョナサン・ダヴという作曲家、日本ではさほど有名でないと思うが、ケンブリッジ大学でロビン・ホロウェイに学び、特にオペラの分野では「ベンジャミン・ブリテンの正統的な後継者」と目されている、らしい。グラインドボーン音楽祭の委嘱オペラ「フライト」での成功を皮切りに、子供向けオペラ「ピノキオの冒険」などでも成功を収めている。何より気になるのは、ワーグナーの「ニーベルングの指環」を18人の奏者による2夜公演用に編曲して、1990年にバーミンガム市響とやったという話。そんなものもあったとは。


「魔笛の踊り」、原題は“The Magic Flute Dances”といい、1999年の作曲で、エミリー・バイノンの委嘱による。2000年に初演され、先述のバイノン盤が2011年の初録音となる。その名の通り、モーツァルトの歌劇「魔笛」の主題を用いたパラフレーズで、20分ほどのフルート協奏曲。
1991年、グラインドボーン音楽祭でモーツァルトの「フィガロの結婚」が上演された際、ダヴはフィガロのモチーフを変形させた木管アンサンブルのための作品“Figures in the Garden”を作曲し、上演に先立って演奏されたそうだ。録音もある(↓のCD)。「魔笛の踊り」はそれよりグッとスケールも大きくなって、もちろんフルートが主役だが、様々な楽器を用いた色とりどりのオーケストラの音色もまた魔法のようだ。モーツァルト好きな方にはぜひ、2曲とも聴いてみていただきたい。


ダヴは、ベイノンから「モーツァルトと繋がりのある協奏曲」という依頼をもらったとき、魔笛のフルートがオペラで奏でた曲以外の、つまり他のパートが奏でていた音楽を演奏するというのはどうだろう、と思いついたとのこと。歌劇「魔笛」は、一応はこの笛のおかげで解決して、めでたしめでたしな訳だが、タミーノはその後この「魔笛」をどうしたのだろう、と。あの3人の子に返しちゃったのかしら、それとも戸棚の奥で眠っているかしら。もしかすると、誰もいないときにこっそり出てきて、タミーノの冒険を歌って踊ったりして……。
という、なんとも可愛らしい発想というか、くるみ割り人形やトイ・ストーリーみたいな。「魔笛さんの思い出」とでも言いたくなる、また一つ新しいおとぎ話が繰り広げられる曲なのだ。もちろん、どのモチーフがオペラのどのシーンで使われているかを知っていた方がずっと楽しいに決まっている。しかし、そんなこと知らない人でも楽しいのが、モーツァルトの旋律の魅力であることは言うまでもない。
どうもこの曲を聴く限りでは、魔笛さんは夜の女王がお気に入りのようだ。いや、お気に入りなのか、強烈な印象でつい口ずさんでしまうのかは知らないけどね。もちろんパンフルートのフレーズも登場。いやいや、そのとき魔笛さんはまだ登場してないじゃんか、とか余計なことは言わない。序曲や、試練のときの音楽、パミーナとの音楽などなど、魔笛さんの思い出が、古典派のモチーフに20世紀終わりらしい和声やオーケストレーションが加わって、面白おかしく描かれている。
ずいぶん脚色された魔笛さんの思い出なので、もっとシンプルなのが良ければフルートとヴァイオリンで魔笛の抜粋を演奏するアラン・マリオンの演奏などもある。それはそれで素敵だし、僕も以前シュルツ親子のコンサートでアンコールにフルート・デュオの魔笛を聴いたのが忘れられないのだけど、それはそれとして、ダヴの協奏曲はまた一つ愉快なファンタジー世界に浸れる、良い音楽だ。


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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more

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