ターナー―色と光の錬金術 (「知の再発見」双書) ターナー―色と光の錬金術 (「知の再発見」双書)
オリヴィエ メスレー,藤田 治彦,Olivier Meslay,遠藤 ゆかり創元社
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僕の最も好きな画家、J.M.W.ターナーの展覧会が東京都美術館で開催されるということで、行ってきました。ターナーを好きになったのは、イギリスのミルバンクの河岸にそびえ立つテート美術館でターナーコレクションを見たときに魅了されたのがきっかけです。そのコレクションが、今回来日しているということで、今度は上野でテートのターナーに会える、これは僥倖この上ないですね。


展覧会は非常に規模の大きなものでした。ターナーのみの展示で約110点。初期から晩年まで、10個のセクションに分けて紹介しており、1.初期、2.「崇高の追求」、3.戦時下の牧歌的風景、4.イタリア、5.英国における新たな平和、6.色彩と雰囲気をめぐる実験、7.ヨーロッパ大陸への旅行、8.ヴェネツィア、9.後期の海景画、10.晩年の作品とそれぞれ題が与えられ、ターナーの絵画を紹介するのに欠かすことのできない代表的な特長を、余すとこなく見せてくれていました。つまり、自然の崇高さやグランドツアー、“色彩の始まり”、そして海の風景、これらを日本でまとめて見れるチャンスは、そうないでしょう。

 

幾つか僕のお気に入りを取り上げて見てみたいと思います。『月光、ミルバンクより眺めた習作』 は1797年の作品で、ターナーがロイヤルアカデミー展に出品し出した頃のものです。ターナーが若い日々を過ごしたミルバンクから眺めたテムズ川は、まさしく彼にとって格好の題材ですね。ロンドンの中でもミルバンクは静かな地区だそうです。静謐な月明かりの夜景、繊細な白の絵の具のタッチで表現されている海上の月光が、見事です。

 

 

 

 

これはおそらく展覧会に来た人の多くが釘付けになったのではないでしょうか。『バターミア湖、クロマックウォーターの一部、カンバーランド、にわか雨』1798年の作品です。1797年にイングランド北西部を旅したターナーは、多くのスケッチを描き、それをもとに移り変わる天候や光の描出に力を注いでいました。この絵には、ジェイムズ・トムソンの詩『四季』(ハイドンのオラトリオで有名ですね)の「春」の一節を添えています。「堂々たる儚い弓が/壮大にそびえ立ち、ありとあらゆる色彩が姿をあらわす。」この儚い弓にも目を奪われますが、タイトルにもある「にわか雨」にも着目したいですね。

 

『レグルス』は1828年の作品で、古代ローマの将軍レグルスの数奇な境遇を描いたものです。このまばゆい光は、実物を見ればすぐにその凄さがわかるというものです。こんな光の描き方をするのはターナーしかいないでしょう。第一次ポエニ戦争でカルタゴの捕虜になっていたレグルスは、ローマへ行って和平交渉の助言をするように指示されるのですが、ローマの元老院に戦争を続けるよう勧め、しかも毅然とした態度でカルタゴへ帰ったため、とんでもない拷問を受けることになります。暗い牢獄に閉じ込めて瞼を切り取り、その後、陽の光にさらすというものです。瞬きできないレグルスが見た陽の光を描き出した、ターナーの傑作中の傑作です。

 

テートで実物を初めて見て、印象的だった絵画が、『湖に沈む夕陽』(1840年~1845年頃)です。この絵に再び会えて本当に嬉しいです。この絵が本当に湖に沈む夕陽なのかどうかは、難しいところなのですが、この彩りは、初めてターナーを見た僕にはあまりに衝撃的で、圧倒され、そして妙に納得してしまった思いがあります。これに関しては、特に言うことなしですね。今見ても、不思議と胸を打つものがありますし、本当の感動がある絵です。

 

まだまだ名画がたくさんあったのですが、きりがないのでこの辺で……。テートのターナーコレクションは都美と違ってもっともっと明るい部屋ですので、ターナーの色彩の良さが最大限発揮されるのですが、なんでしょう、案外暗い中で見るターナーも悪くないな、なんて思いました。暗い中でスポットを浴び、浮かび上がってくる色彩にも、また違った良さがありますね。