Schumann: Symphony 4


なんと妻がクリスマスプレゼントだと言ってチケットを取ってくれました。ありがたやありがたや、生きていればこういうこともある。よくよく拝んでおかねば。巷では評論家不要論とやらがちょっと話題になっていますが、家帰って妻にどうだったかと聞かれたら「素晴らしい、奇跡の大名演であった、私は最高の経験をした、幸せだった」と言ってまた買ってもらおうと思っちゃうので、そう考えるとやはり招待券をもらって聴くライター様の論評は信じちゃダメだと言えよう。妻に何を言うかはともかく、ここには何を書いても、誰も原稿料もくれなきゃ招待券ももらえないので、正直に感想を書きましょう。いつも正直に書いてるけど。そうそう、正直に言えばね、錦糸町という街は嫌いだよ。


【アンドレーエ指揮新日フィル『第九』特別演奏会2017】
(2017年12月16日、すみだトリフォニーホール)


ベートーヴェン 交響曲第9番 二短調 作品125「合唱つき」
指揮:マルク・アンドレーエ
ソプラノ:森谷 真理
アルト:山下 牧子
テノール:大槻 孝志
バス:久保 和範
合唱:栗友会合唱団(合唱指揮:栗山文昭)


まず、マルク・アンドレーエという指揮者を知っている人はどのくらいいるのだろう。シューマンのファンならちょっと前にツヴィッカウで話題になったからもれなく知っているはずだし、祖父のフォルクマール・アンドレーエは有名だからその孫も指揮者だということで知っている人もいるかもしれない。あとはN響、読響も振ったそうなので、それを聞いた人は知っているだろう。僕はというと、来日公演は今回初めて聞いたのだが、知る人ぞ知るかの有名なドキュメンタリー作品「旅路のモーツァルト」(ユーロアーツ製作の、プレヴィンの語りと様々な奏者による協奏曲ライブが収録されている全13章の映像作品)で、モーツァルトのピアノ協奏曲の1番4番をホルトマンのソロ、5番をフレージャーのソロ、ともにオケはスイスイタリアーナ管を指揮しているのを見て「おお、この人がアンドレーエの孫か……」と思ったのが見初めた瞬間であり、正直に言おう、その後ほとんど顧みることはなかったのだけども、妻がチケットを取ってくれたのをきっかけにDVDを見返して「おお、良い指揮者じゃないか」と、新日フィルとの第九に期待も膨らんだという次第だ。

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まずは新日フィルの公式ホームページや演奏会のパンフに載っているアンドレーエのプロフィールについて、多分本人の公式サイトにある紹介文を翻訳したものだと思うのだけど、ナディア・ブーランジェとフランコ・フェラーラに学んだと書いてありますね。しかしですね、僕は一番肝心な「ペーター・マークの付き人として研鑽を積む」という文言が入っていないことに一言物申したい。まあ公式サイトにも書いてないんだけど……。ブーランジェとフェラーラに学んだと言われてもお二方とも大教授過ぎてピンと来ないけど、ペーター・マークの弟子と言われたら随分想像もできるんじゃないかしら。別にマークの真似をしているとまでは言いませんが、マークがパドヴァ・ヴェネト管と録音したベートーヴェン集の第九を聴いてみれば、オケは下手ですがそれはともかく、マークから何を学び、逆にどんな独自性を持っているかもわかるかと思います。思えばマークも、師フルトヴェングラーとは別のアプローチのベートーヴェンですね。


演奏は、始まれば可もなく不可もなしの中庸インテンポで、アンドレーエは自然体で余計なことはしたくない、響きが汚くならないようなフレーズの処理だけ少し手を加えて、特別にどこかのパートを鳴らしたり際立たせることでスコアを浮かび上がらせるようなこともなく、自然な音楽作りをしたいということがすぐに伝わってきます。そのわりには、オケの方はスロースターター、いまいち付いて来ない。2楽章からはかなり良かったのですが。対向配置、セコバイ、ヴィオラ、チェロ、とても良い響き。コンバスは程よくデカイ音でバランスも非常に美しい、しかしなぜかときに響きにムラが出るストバイ、なぜだ。ホームで熱くなるのもわかるが、音色が荒れるのが耳障りで残念だ。それにしても良かったのはティンパニ。音色の変化、全体のバランスといい引き締まったリズムといい、これは文句なしに心地良かった!


2楽章終わりに、独唱者たちと打楽器奏者たちが入場。3楽章のホルンソロ、これまた素晴らしい。クセのある吹き方で妙に牧歌的な歌に聞こえたわ。しかし管楽器もムラが大きいね。ちょっと野暮ったいくらいで穏やかな和音を聞かせてくれるかと思えば、急にグダグダになったりと、忙しかった。これは仕方ないのかしら、年末の恒例のお仕事だしね。管も弦も、盛り上がった後のフレーズでずれるのがメチャクチャダサい。そこでインテンポができない。なお繰り返す場合は、2回めになるとすんなり出来るので、これは仕方ないのかしら、年末の(以下略)。合唱もかなりテンポを気にかけていたのか、入ってすぐはかなり前のめり。しばらくしたら合うのだけど、今度は合唱入ってからのオケの荒れ様に、無念。もう少し、もうほんの少しだけ、縦が合えば、アンドレーエのやりたいきれいなインテンポで自然な音楽の流れが、グルーヴが生まれるのに、惜しい。独唱はいずれも素晴らしかった。クライマックスも中庸の美、ひたすら息巻く感じでもなく、重厚過ぎることもなく、厭味ったらしくならない生き生きとしたベートーヴェンの音、これはアンドレーエの芸ですよ。感動しました。こういうのはなかなかお目にかかれない。特に年末の第九では。実に良かった。


はっきりわかったのは、アンドレーエはとても良い指揮者だということと、もっとよくリハできれば素晴らしい第九を振れるのは間違いないということと、年末の第九商戦で来日はちょっと勿体無いということかな。知的なのに、知に寄り過ぎない音楽で、心穏やかになる音楽をする人ですね。と言いつつ、僕の隣席のおっさんが1~3楽章ほぼ全て寝ていたために、僕は演奏中にふと「そうだ、3楽章が終わったら、独唱者たちが入るみたいに、歓喜の歌しか興味ないお客さんをゾロゾロと後ろの席に入れたらいいんだ、歓喜の歌席というちょっと割安な席を用意したらみんなウィンウィンだ!」という名案もとい邪念が浮かんでしまい、あまり穏やかな気持ちになれませんでしたが、まあアンドレーエに免じてよしとしましょう。


カーテンコールで木管を立たせるときも、なぜか立たない木管陣。これは自覚ありってことでしょうか?笑 僕が映像で見たアンドレーエは20年近く前のライブで、アンドレーエもまだ白髪じゃないんですが、得意の左手の使い方なんかは昔のライブ映像と全く同じですね。今も若々しいこと。また聴きたいですね、今度はシューマンか何かを。そうそう、同じ日に、みなとみらいでデュトワがN響を振っていたそうです。スイス人祭りだったようです。12月はジョルダン指揮ウィーン響も聴いたので、はからずして個人的にもスイス人祭りになりました。

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Ludwig van Beethoven,Peter Maag,Ruthild Engert,Orchestra di Padova e del Veneto,Amanda Halgrimson,Zeger Vandersteene,Athestis ChorusArts Music
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