シューベルト:「死と乙女」&「ロザムンデ


ウィーン弦楽四重奏団、2014年に「最後の日本ツアー」と銘打ったコンサートに来たとき以来です。その前聴いたのは2010年。毎度毎度シューベルトの「死と乙女」を聴けるのは大変幸せなことです。もはや一種の伝統芸能ですな。


【ホリデーアフタヌーンコンサート ウィーン弦楽四重奏団】(2017年11月4日、ミューザ川崎シンフォニーホール)
ハイドン:弦楽四重奏曲第39番 ハ長調「鳥」
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K.458「狩」
シューベルト:弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D810「死と乙女」
アンコール
モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番 第3楽章メヌエット


紀尾井でやる遠山先生との共演も聴きたかったのですが、下の子が小さいうちは夜のコンサートは自粛しているのです……。ただまあモーツァルトのピアノカルテットは前回聴いたし、今回の川崎公演でやるハイドンの「鳥」をとても楽しみにしておりました。たぶんウィーンSQは録音してないんじゃないでしょうか。ヒンク氏の技術的な衰えを鑑みるに、あんな早いフレーズちゃんと弾けるのかななんて余計な心配をしたりしましたが、別に技を見に来ているのではないですし、彼らにただ上手いだけの演奏などこれっぽっちも求めていません。1曲目のハイドンの鳥を聴いてすぐ、なんと美しく艶のある音色なのか。この音を聴きたかったのだ、このために来たのだと確信し、感動しました。特に2楽章、あんなに柔らかく、触れれば壊れそうな、艶のある響きで弾けるカルテット、もう他にないでしょうね。精密を究めた美音を誇る団体は多いですし、増えていくんじゃないかとも思いますが、それとは全くベクトルの異なる音楽ですね。1,4楽章はヒンク氏もあまり上手く弾けてないのですが、さすがにモーツァルトの狩りは彼らのレパートリーなだけあって、ハイドンよりも安定感のある演奏でした。何より、ヒンク氏、クロイザマー氏、オクセンホファー氏の音色に加え、チェロのドレシャル氏亡き後に新しく加入したパシュコ氏を含めた上での、トータルの響きが良くキープされていて驚きです。多分ですが、パシュコ氏がフルパワーで弾いたら他の3人かき消されるんじゃないかと思います。年齢も差がありますし、退役軍人みたいなお爺さん3人と合わせるにはそれ相応の気遣いとテクニックが要るんだと思いますが、良いバランスで、期待通りのソノリティでした。


大本命の「死と乙女」でも、特にチェロは上手くやっていたと思います。ウィーンSQは古いタイプのカルテットなので、1stヴァイオリンありきで他は追従するスタイルですし、多くの古典派弦楽四重奏曲はそのようにできています。シューベルトも死と乙女くらいになるとロマン派的な要素もあるのですが、彼らの解釈ではチェロが出るところはもう決まっています。つまり、チェロがいくら単独行動をしていたり面白い目立つ動きをするところでも(特に最近の上手いカルテットはそういうところを見逃さずによく工夫して個性をアピールし今まで見逃されがちだった構造の面白さを表現するのですが)、かなり自重して、旧き良き演奏を意識されてたのではないかと。あくまで憶測ですが。そんなチェロの歌いも含め、3楽章の歌、素晴らしいですね。4楽章は、いつも魂をすり減らすような迫力の演奏、やはり体力的にとてもしんどそうでしたが、よく駆け抜けました。健闘を称えます。ブラボーですね。


アンコールのチョイス、これがまた最高でしたね。モーツァルトの15番の3楽章。技術的に全くムリがないのでミスもなく、しかも本プロにはほとんど登場しないピツィカートでの伴奏によるヒンク氏のソロ。繰り返しになりますが、ウィーンSQは過去のウィーン・フィルのコンマスが主宰するコンマスありきのカルテットや、ブレイニンありきのアマデウスSQと同様(もっとも彼らとは音楽性は全く違いますが)、やはりヒンク氏ありきのアンサンブルなのです。美しいメヌエットでは、僕が聴きたいと思っていた、求めていた理想の音楽が、ほんの短い時間でも実現されてとても嬉しかったです。これがウィーン弦楽四重奏団の音……!もっと言えば、モーツァルトの15番K.421という、アマチュアでも取り上げるような易しい曲を敢えて持って来る潔さ、これが本当のプロフェッショナリズムですよ。そして後半プログラムの「死と乙女」は全楽章マイナー調の曲ですが、そのムードを壊さないよう、ちゃんとモーツァルトのハイドンセットで唯一の短調の曲を選ぶところ、これですね。たとえ技術は衰えても、ウィーンはいつもウィーンといったところです。

シューベルト:「死と乙女」&「ロザムンデ シューベルト:「死と乙女」&「ロザムンデ
ウィーン弦楽四重奏団,シューベルト

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