ストラヴィンスキー:火の鳥(1919年版)


ヤンソンスとバイエルンの今年の来日公演では、マーラー9番やアルプス交響曲など、いかにもクラシックファンが好んでチケットを取りそうな良いプログラムが組まれていましたが、ツアー千秋楽にあたる11月28日のサントリーホール公演はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲とストラヴィンスキーの火の鳥という、これまた「どうしてもヤンソンス&バイエルン放送響で聴きたい!」と思う人が案外少なそうなプログラムで、そのおかげか、この公演だけS券とA券が安売りしていたので、ラッキーと思って聴きに来た次第です。意外と空席あり。他公演の入りがどうだったか知りませんが、やはりマラ9とアルペンには勝てんのでしょう……。


【ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団 来日公演】
(2016年11月28日、サントリーホール)
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
(ヴァイオリン:ギル・シャハム)
アンコール
クライスラー:美しきロスマリン(ヴァイオリンとオケ伴奏)
ストラヴィンスキー:バレエ組曲 「火の鳥」(1945年版)
アンコール
グリーグ:過ぎにし春
エルガー:野生の熊たち
指揮:マリス・ヤンソンス


マーラー9番やアルペンの好評っぷりを目にしていたので、「どうせならそっちを聴きたかったなあ」なんて聴く前は思っていたのですが、反省しました。前半を終えて、シャハムのベートーヴェンだけで十分元を取ったなあと感じるほど、素晴らしい演奏でした。取り立てて奇抜な演奏ではないですが、伝統と遊びが程よいバランスで存在する、上品な演奏でした。シャハムの魔法のヴァイオリンは本当に美しい世界を描き出してくれます。何より、彼の使用する1699年製ストラディヴァリウス“ポリニャック伯爵夫人”の音色と美しい歌いまわしに心からうっとり。これは本当に beyond description ですよ。


ベートーヴェン中期作品の良さは、いかにもベートーヴェンらしいときに雄々しくときに甘美な旋律であることは確かです。それに加えて、例えばこの曲の冒頭なんかもそうですが、聴く人を「おや?」と思わせる所々に散りばめられた仕掛けもまた魅力です。少し駆け足気味に入る冒頭のティンパニにまず驚かされました。ヤンソンスもしてやったりだったでしょうね。それに続く伸びやかな木管の音色がまたとにかく美しい。快いテンポでよく響く木管に心奪われ、続く弦楽器の芯のある響きがドイツ正統クラシック音楽を支えます。良いオケです。第19・21小節の4拍目、スタッカートの付いた8分音符でグッとテンポを落とすヤンソンス、これもきっとしてやったりなことでしょう。シャハムもカデンツァで盛りまくり。3楽章の主題に織り交ぜた、ちょっと数奇なコードのスケールも、シャハムの即興なのでしょう。そんな遊びも微笑ましく思わせるヤンソンスとバイエルン放送響の音作りと、シャハムの圧倒的テクニックに脱帽です。アンコールはオケ伴奏付きで美しきロスマリン。オケを魅せますね。良かったです。


火の鳥というとヤンソンスとバイエルン放送響では1919年版を録音した盤(2004年録音)がありますね。僕はカップリングの、マツーエフが弾くシチェドリンのピアノ協奏曲第5番の方ばっかり聴いていて、火の鳥の方はほとんど記憶にないのですが、今回は1945年版という10曲版です。あまりよくわかりませんが、スヴェトラーノフ盤を持っています(が殆ど聴いていません)。ヤンソンス自身、なぜこの版なのかという理由に「長さがちょうどいい」とか「久しぶりにやってみたくなった」とか言っているので、大した問題じゃなさそうです。しかしこういう曲もまた、ヤンソンスとバイエルン放送響にはよく似合いますね。めくるめくファンタジーの世界。ドイツ正統派の音楽だけでなく、オケのスペックがフル回転するような曲でも、まろやかな音色を携え続けるのはとても聴き心地が良かったです。しかしこのオケもまたバスドラム鳴りますね~。メーカー見れなかったのが残念。ホルンのソロはあっぱれ。ベトコンでちょっとコケて悲しそうな表情をしていましたが、火の鳥で大挽回です。


アンコールはグリーグとエルガーの小品。長年オスロ・フィルの音楽監督を務めたヤンソンスらしい選曲ですね。アンコールを含めると、ドイツ、オーストリア、ロシア、ノルウェー、イギリスの作曲家の曲をやったことになり、「うちらのオケ最強」感が出ててとても良かったです(笑) カーテンコールでヤンソンスさんが一回派手にずっこけて(拍手消えるくらい)、その後あの元気ポーズ、何て言うんですかねあれ、ラジオ体操第2のあのポーズ、あれをやって大丈夫アピールして、会場が沸いてました。72歳だそうですし、怪我していないことを祈りましょう。一般参賀もありましたが、気持ちとしては早く帰ってゆっくり休んでくれといったところです。


最近は火の鳥なんてほとんど聴いていなかったし、ヤンソンスもそんなに聴いていなかったような記憶なのですが、振り返ってみるとベルティーニ指揮の火の鳥を聴いていましたし、ヤンソンス/バイエルン放送響については、ラジオでたまに聴いていました。2014年のミュンヘンライブ、リゲティのアトモスフィアと内田ソロによるベートーヴェン4番、そしてショスタコの5番。そうそう、あとはヤンソンスが2016年のニューイヤー指揮者に選ばれた際、ウィーン・フィルの女性差別批判で有名なノーマン・レブレヒトがヤンソンスに女性奏者を最低10人はステージに上げるよう直訴すると息巻いていたのを思い出しました。結局今年のニューイヤーってどんなでしたかね……。あんまり覚えていませんし、ここ何年かはどちらかパパヤンソンスの方をよく聴いていました。特に言いたいのはシベリウスの悲しきワルツ、アルヴィド・ヤンソンス指揮レニングラード・フィルによる1963年の録音、これがまた絶妙なんですよ。かなり大胆に速くしてもあるいは遅くしても、一瞬も緩まない。さすがはパパヤンソンスとレニングラードと感激しました。マリス・ヤンソンスとバイエルンのタッグからもそんな雰囲気を感じることができたようなできないような……。

リヒャルト・シュトラウス: アルプス交響曲 Op.64/死と変容 Op.24 リヒャルト・シュトラウス: アルプス交響曲 Op.64/死と変容 Op.24
バイエルン放送交響楽団,マリス・ヤンソンス,リヒャルト・シュトラウス,ヤンソンス

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