Beethoven Symphonies


サントリーホールメンバーズの壮絶な先行チケット争奪戦に敗れたので行けないと思っていましたが、ある方から定価以下で譲ってもらいラッキーと思いながらこの日を楽しみにしていました。それにしてもこんなにチケット取れないなんて、まあ天下のベルリン・フィルですから仕方ないにしても、もしかすると主催の某日本を代表する企業様の招待券や、ダフ屋なんかも多いんだろうなあ、なんてね。秋の小澤&WPhなんて瞬殺かと思いきや余裕で取れたというのに……笑。


【ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演】
(2016年5月11日、サントリーホール)


ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調 作品21
ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
指揮:サー・サイモン・ラトル


やはり上手いものは上手いですね。弦の厚みが異常です。来日公演で樫本さんがコンマスを務めるのを見ると、やはり日本人としては嬉しくなります。ラトル指揮の演奏は、まあ大方の予想通り、超ハイスペックなオーケストラというオモチャを手にしたラトルくんが、自由自在にこねくり回して遊び倒す演奏でした。こういうのは好みのベートーヴェン解釈ではありませんが、幾分ハイドン的・モーツァルト的な第1交響曲なら、遊び倒していても、これはこれで聴いていて楽しいものです。毎日新聞の記事で、ラトルは第1交響曲を「筋トレをしたハイドン、ステロイドを使用したような古典派作品」と評していると書いてありましたが、本当にそんな解釈がよく表出した演奏だったのではないでしょうか(記事へのリンクはこちらか下の画像から)。ほんと、すぐそういうこと言っちゃうからなあラトルは。ウィッティだしちゃんと有言実行なんだけど、過去の巨匠お歴々が聞いたら激怒しそうだね(笑)


例えばエロイカの2楽章のコントラバスの装飾音符は32分音符の3連ですが、ここが妙に音がデカくてゆっくり強調されていて気になったという人は僕だけではないはずです。こういうのがベートーヴェンだけでなくブルックナーとかマーラーでもちょいちょいあって「むむっ」と唸ってしまうのがラトルのドイツ音楽の特徴ですね。ベートーヴェンチクルスにおいても、ベーレンライター版の校訂を行ったデル・マーからラトルは様々な意見を受けているそうですし、色々と試行錯誤しているようです。そういう手の込んだ作業が素人の僕にも解るほどよく音楽に現れていたのですが、エロイカの終楽章だけは普通(いや、もちろんすごい上手いし勢いのある演奏ですよ)と言いますか、思ったほど変わったことがないなあなんて思いながら聞いていました。終演後にネットで他の人たちの感想を見ていると、終楽章は完全にオケが主導権を握っていたという感想にあたって、なるほどそうかもしれないと納得。それまでの楽章の小細工に対するベルリン・フィル一流の反抗だとしたら面白いですね。彼らにだって染み付いた伝統の香りもあるでしょうし、プライドってものもあるでしょう。


今回は、自分の好みや理想とするベートーヴェンの交響曲像や、過去のラトルの録音などの先入観なしで、なるべく真っ新な気持ちで聞こうと努めたつもりです。そういう気持ちで聞いて、とにかくラトルのちょっと引くくらい高い独創性と、それを高い完成度で実現させるベルリン・フィルの技量に驚かされます。なんせウィーン・フィルとのベートーヴェンは、ウィーン・フィルの良いところを削りに削ってラトルの意図を実現させようとしていたように感じましたが、ベルリン・フィルはラトルのテコ入れを全く苦にせず、むしろそれがオケのハイスペックな魅力を存分に引き出すことに繋がっていました。僕も10年くらい前は、演出過多で小細工入れまくり、厭味ったらしくて皮肉たっぷりのラトルのベートーヴェンなんてドン引きもドン引き、20世紀演奏のファンにとっては蕁麻疹必至なものでしたが、まあこういうのもアリだなと思えるようにはなりました。ベルリン・フィルは滅法上手いし、もう時は2016年なんだし……。


変化と革新のオーケストラであるベルリン・フィルに保守的な演奏を求めることは間違っているので、これからもどんどん攻めて欲しいですね。ラトルも退任決まりましたし、来年あたりまた来日して、キレッキレの現代作品やプロコフィエフなんかやると良いなあと思います。なんならアルゲリッチとかと共演したら、それはお金もかかりそうですが、日本公演ならお金持ちがホイホイ出してくれそうですので、ガッポリでしょう。過去にラトルは来日公演でヴァレーズやアデス、武満や細川、ブリテンなどもやっていますし、そういうのが名演になることは明らかですし、多くの本当のディレッタントはラトルだったらベートーヴェンチクルスじゃなくてそういうのが聴きたいと思っているんじゃないでしょうか。何もラトルのチクルスを否定しているわけではありません。ただ「ベルリン・フィルのベートーヴェン」などに拘りを持つ熱心なクラシックファンなんて今や殆ど絶滅してるんじゃないんですか? そういう拘りを持って聴きに来る人は、大体お付き合いの招待客か金持ちの道楽ってとこでしょう。ベルリン・フィル2008年の来日のポスターを見たときに、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームス、マーラーというプロを見て、うーん別に行かなくていいや、と思ってしまったのを覚えています。今回ベートーヴェンを聴いて、いいオケと指揮者だというのは確かです。だからこそ、ラトルとベルリン・フィルにはドイツもの以外の名演を期待してやみません。それが聴きたけりゃベルリンまで来い!と言われたら、まあそれまでよ(笑)