ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団 来日公演

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ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」 他


少し前に経営危機で話題になったフィラデルフィア管弦楽団が来日するとのことで、この興行に乗るのも多少は伝統を支えることになるかな~なんてことも頭の片隅で思いつつ、3日のモーツァルト&マーラーのプログラムのチケットを取ることにした次第です。チャイコフスキーの悲愴は、指揮者のネゼ=セガンさんの思い入れのある曲だということで、それを聴くのも選択肢としてはありましたが、ここはひとつ、華麗なるフィラデルフィア・サウンドでマーラーの巨人を聴くのが良いだろうと思い、そしてその予想は大当たりでした。


【フィラデルフィア管弦楽団 来日公演】(2014年6月3日、サントリーホール)
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」
アンコール バッハ(ストコフスキー編):小フーガ ト短調
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン


モーツァルトの「未来に向けた交響曲」と、伝統を受け継いだマーラーの「始まりの交響曲」という意味合いを持たせたカップリングだそうで、そういう風に見ると、モーツァルトはかなり未来に生きている演奏でした。ふくよかな弦楽器の音色がうねるような曲線を描きながら奏でられるモーツァルトのジュピター、正統派の演奏とは言えないとは思いますが、つまらない音楽ではありませんでした。幅の広いダイナミクス・レンジや少し凝った間の取り方で濃淡をはっきりと付けた音楽作り。全体的にもですが、特に4楽章はかなり早いテンポでした。「モーツァルトでもフィラデルフィア管の魅力を十分に伝えられる曲を」とネゼ=セガンさんは語っていましたが、なるほどフィラデルフィア・サウンドを上手に料理して個性的な演奏に仕上げていたのではないかと思います。ただまあ、次にあのマーラーを聴いてしまったので、「モーツァルトをやる意味は?」と少し疑問に思ってしまったのですが。本当に、マーラーのための前口上のような感じです。


そのマーラー巨人ですが、正直期待以上の素晴らしさで、素直に感動です。オーケストラを聴く喜びをストレートに感じる演奏でした。1楽章冒頭から緊張感の絶えないような鋭いカッコーの木管で、曲を通してパリッとキレ味のある木管と鳴らしすぎないけれどもパワーと華やかさを湛えた金管というバランス。2楽章も勢いがありました。若き悩みや葛藤そのものではなく、むしろそれを乗り越えてやるぞという気概のごときものを感じる低弦の音。そして何より、打楽器、特にバスドラムがかなり上手いですね。静かな部分の弱音がまあ上手い。音というよりも、腹の底に響いてくる、空気を揺さぶるような振動。楽器はLEFIMAでしょうか。席は1階席真ん中後方だったので、そこまでは確認できませんでしたが、とにかく上手かった。おそらくこの人が副主席のAnthony Orlandoさんで、オーマンディに呼ばれてフィラデルフィア管に来た人です。そして一方、主席のChristopher Devineyさん、この方がおそらくシンバルだったと思いますが、まあなかなか、不評だったみたいですね(笑) うちの奥さんは途中からちょっと笑いそうになってたそうです。なんというか、鳴らないシンバルでしたね。常時「パサラン」って音でした。むしろOrlandoさんのバスドラムとセットのシンバルの方が上手かった気もします。盛り上がるところでも必ず乾いた音しか出ないので、何か理由があるのでしょう。「フィラデルフィア管のシンバルは鳴らないのが伝統だ」なんて言葉も耳にしましたし、「フィラデルフィア管のシンバルは第二次世界大戦前のものを今でも修理しながら使い続けている」なんて話も聞きましたが、実際のところどうなんでしょう。昔のオーマンディの録音でも、鳴ってるところはちゃんと鳴ってると思うんですが……(笑) そこはともあれ、4楽章もオケは勢いがあり、ネゼ=セガンさんもさすが鍛えているだけあって、全身を激しく動かして指揮していました。最後の方のテンポなんか相当でしたね。


あふれんばかりの、清々しい勢いの良さ、漲るパワー、これらは間違いなく、オーケストラを聴く喜びのひとつだと思います。そうした力を出し続けながら、ここまでのクオリティの演奏をするのは、並大抵のことではないはずです。もちろん、海外オケですし、もっと精度の高いアンサンブルを期待する人もいたことと思いますが、これだけの熱演を前にしてアンサンブルの乱れや多少の音程にどうこう言うのはナンセンスでしょう。そういうのは別のオケや、今後のネゼ=セガン/フィラデルフィア管のタッグが強固になっていくことに期待することして、今回はこれで大満足。マーラーを選んで正解でしたね。アンコールも、バッハのフーガが来た瞬間、ストコフスキーへの敬意を感じて、温かい気持ちになりました。ストコフスキー好きな僕としては、ますますこの指揮者、このオーケストラを応援したくなりました。

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