ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」


ブロムシュテットがN響と第九をやるというので、これはやはり聞いておかないといけないと思い、忙しい時期ですが何とか何とかチケットを取ったのであります。今回1階C3列だったのですが、公演当日の朝に別のN響公演のチケットを取ったら、なんとたまたま、またまた全く同じ席で、これは「運命」を感じる……「第九」だけど……。


【N響創立90周年記念 ベートーヴェン「第9」演奏会 2016】
(2016年12月11日、NHKホール)
ベートーヴェン 交響曲第9番 二短調 作品125「合唱つき」
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ソプラノ:シモーナ・シャトゥロヴァ
メゾ・ソプラノ:エリーザベト・クールマン
テノール:ホエル・プリエト
バス:パク・ジョンミン
合唱:東京オペラシンガーズ


結論から言えば大変良い演奏でしたし、こういう演奏を望んでいたので満足です。スコアがそのまま音となったような……テンポは若干速めでしたが、ブロムシュテットの意図はよくわかります。昨年のパーヴォをはじめ、丁寧にスコアを浮き彫りにするような演奏スタイルではなくて、ブロムシュテットはスコアをスコアのまま、スコアとして提示します。「ワン・ベートーヴェン、ワン・第九」ですね(適当)。解説で樋口隆一先生が、ブロムシュテットについて、「最近はこれら(著者注:1~3楽章)をあっさりと片付けて終楽章に突入する「モダン」な解釈がはやりだが、それでは《第9》の真髄は伝わらない。ひとつひとつの動機や主題の意味を味わい、壮大な構造物にまで織り上げてゆくベートーヴェンの音楽的思考を、人間的な共感を持ってつぶさにたどり、真摯な態度で音にしてゆく」指揮者だと語っていましたが、ガチガチの音楽的構造主義ではないにしろ、ブロムシュテットは聴衆にこの曲の全体像をよく意識させる演奏をしたと思います。


「曲の全体像を意識させる」には、小細工があると邪魔ですし、終始統一された雰囲気を保ち続ける必要があるわけですが、ブロムシュテットは上手く心得て演奏をコントロールしていましたね。緩みないテンポ感と小さくなりすぎないデュナーミク、特に低弦の鳴りの良さのおかげで、常にある程度のスケール感を創出していました。思わず息も止まるような糸をピンと張った緊張感ではなく、淀みなく空気を震わせる音波が会場を温かく包んでいました。またいわゆるサプライズ演出のようなものもなく、ごくごく正統派な演奏を、人間のエネルギーに満ちた演奏をしていました。僕は第九の演奏に際して、レントゲン写真のようにスコアの中身がくっきりはっきり見えるような演奏よりも、ドイツの音楽評論家パウル・ベッカーが言うような“gesellschaftsbildende Kraft”(コミュニティを形成する力)を発揮する演奏の方が好みです。聴衆を一つにし、高揚させ、一つの感情に支配された音波が全ての人間の知的な制限を押し流し、人々を動かしてしまう力……ね、20世紀的でしょ?笑 でも、この力を発動させるように努めたからこそ、第九という曲はひとつの「全体像」として現れるのであり、ブロムシュテットはそうすることに成功していたと感じました。


また、だからこそ、圧倒的な合唱には心からブラボーを送ります。東京オペラシンガーズの爆音は必要不可欠でした。オケの小さいミスも今年は許されましょう。もし、レントゲン写真のように細部をはっきりとさせる演奏をするなら、それは決して許されません。レントゲン写真で「やべえ、背骨の位置ずれちゃった」では困りますから。ブロムシュテット第九公演の初日、固さもあったのでしょうか、マズアだったら止めてやり直しを強いていたかもしれない3楽章頭の木管のミスも、その他若干ヒヤヒヤする場面、というかもうちょっと指揮の煽りに乗って欲しいような場面もなくはなかったのですが、それを気にしないでも良い類の演奏だったと思います。とは言いつつ、合唱に比してソリストの音量不足はやや悔やまれます。オーソドックスな歌唱で良かっただけに、もったいない……まあきっと僕の耳が腐っているせいですね、アルトの声なんかなぜかほとんど聴こえなかったし(笑)


ブロムシュテットは90周年記念だから選ばれたのもあるでしょうし、ブロムシュテット自身もよく理解していたのではないかと思います。今年のN響第九の祝祭性、もっと言えば日本の年末の第九の祝祭性、もちろん、悪く言えば形骸化した文化ですが、その辺のことまできちんとわかっているからこそ、この喜びと幸福に満ちた音楽を希求する姿勢として現れたのではないでしょうか。さすがは桂冠名誉指揮者です。良い第九でした。あ、あと、今回はかなり前列の席で、ブロムシュテット氏の深い精神性に直に触れたためでしょうか、ごく僅かな間だけメディテーションタイムに突入してしまったので、大晦日の放送で映ってないといいなあと祈っています。色々感想書いてますが、実際のところ僕なんてこんな程度のやつですので、話半分で聞いてくださいね。公演だということを忘れててチケット取りに一時帰宅したくらいですし、何より第九を聴く前に流し込むNHKホールの瓶ヱビスは格別なり。

ベートーヴェン交響曲全集 ヘルベルト・ブロムシュテット ベートーヴェン交響曲全集 ヘルベルト・ブロムシュテット
ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 シュターツカペレ・ドレスデン

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