Mozart. Geld, Ruhm und Ehre

高森義之さんの講演会に行って来ました。高森さんはオーストリア国家免許のガイドをされている方で、トロンボーン奏者でもある方です。家から会場まで歩いて行けそうだったので、天気も良いしお散歩がてら徒歩で会場へ。千住新橋から望む荒川の景色は、何度も見ていますが、天気が良いといっそう清々しいものです。


今回の講演は、高森さんが、ザルツブルク・モーツァルテウム大学の学長を務めた、モーツァルト研究の権威であるギュンター・バウワー先生の著者『モーツァルト:お金、名誉、栄光』(Mozart: Geld, Ruhm und Ehre)を翻訳するようにと、日本のモーツァルト研究の第一人者海老沢敏先生から依頼され、その翻訳本が来年の秋に音楽之友社から出版されるとのことで、このような題名の講演会になったとのこと。モーツァルトは人生でどれだけ稼いで、どれだけ使ったかということは、研究も様々にされているようですが、バウアー先生の著作はその件に関する300ページ以上もの力作だそうで、信用度の高いものになっていると思われます。


モーツァルトは、晩年の約11年間(1781年3月~1791年12月)を生まれ故郷のザルツブルクから離れてウィーンで過ごしましたが、その期間で一体どれくらいのお金を使っていたのか? なかなか興味深い疑問ですね。バウアー先生によると、円に換算して2億円から3億円ほど稼いだのではないかということです。年収にすると、1500万円から2000万円、特に最晩年の方が多くて、3000万円から4000万円とのこと。意外ですね。モーツァルトの晩年のイメージというと、借金だの貧乏生活だの、そういうイメージが多いと思うのですが、実はそうでもなかったのかもしれません。そして、ギャンブルでも案外勝っていたとのこと。全体支出の14%がギャンブルだそうですが、ギャンブルのうち負けは17%しかなかったんだそうです。強いなモーツァルト……。また、ロトも大好きだったようで、ホルン協奏曲の自筆譜にはロトの数字の予想がメモしてあったり……。


当時の人々の暮らしにおいて、支出はどんなものなのでしょうか。バウアー先生は、1798年に出版された当時の旅行ガイドや、1788年出版の、公務員のための生活の本などを発見したそうです。モーツァルトを含め、人々が日常生活でどの程度出費をするのか、また旅費等はどのくらいかかるのか、そういったことの参考になる本なんですね。ちなみに、当時ウィーンの公務員は、年収200万円から500万円くらいだったそうです。例えば、モーツァルトは手紙が多いことで知られていますが、郵便馬車で運んでいたので、当然現代よりもお金はウンとかかる訳です。差し出し、受け取りにそれぞれ1回につき800円とか1000円とか必要なんですね。モーツァルトは親しい友人には、どうでも良いふざけた手紙を沢山出していたようですが、1000円払って受け取ったモーツァルトからの手紙に、全く内容のないようなものがあった、なんてことも。


モーツァルトは演奏旅行もしましたが、例えばザルツブルクからプラハまでの旅行にはどれくらいのお金が要るのかというと、移動費や宿泊費なども含めて往復20万円前後だそうです。では、そうした演奏旅行でどのくらいのギャラを貰えるのか? もちろん様々あるとは思うのですが、幼い頃のウィーンへの演奏旅行、シェーンブルン宮殿でマリア・テレジアの御前で演奏したときなどは、数百万円程度のギャラに、さらにチップが100万円以上、それも時価ウン百万円の純金の箱に入れてもらっていたそうです。


モーツァルトは、他の作曲家のオペラやコンサートなどにも頻繁に通ったそうです。そこで、どんな音楽がウケが良いのか、いわゆる市場調査を行っていたんですね。ウィーンの11年間で、モーツァルトの支出は2億円くらいだったそうです。あれ、ほとんど収入と同じくらいじゃないか……。2億円の支出というのは、さすがは貴族趣味のモーツァルト、かなりバブリーな方だったそうで、ハイドンの生涯支出と同じくらいだと言われています。食べ物も好きだったし、服装も豪華です。まあ、そういう所にこだわりがないと、箔も付かないんでしょうね。よく見るモーツァルト像のあの赤い服、あれは宮廷音楽家の正装だそうですが、あの服も相当お高いようです。金縁の装飾は、当時金色の糸が無かったので、純金で装飾していたとのこと。すごいですね。


「コンスタンツェは悪妻ではなかった!」というのは、バウアー先生も、そして高森さんも強調したいところで、コンスタンツェが浪費家で、あれこれおねだりして家計を追い詰めたりしていたのではない、と主張されてました。この有名なコンスタンツェの像、彼女の服はオールシルクのフルオーダーで、300万円くらいしたそうなのですが、これはモーツァルト自身から贈られたもので、決して勝手にコンスタンツェが買ってきたのではないんだそうです。子どもを6人生んだ後、元々体も弱くて(特に足が弱かったという説も)、治療費もかさむし、バーデンで保養するものお金がかかります。要は仕方ない出費だった、と。


晩年の貧乏モーツァルトのイメージが、少し変わりましたね。モーツァルト自身の言葉で、「もし皇帝が1000グルデン、貴族が2000グルデン出すというのなら、貴族のために曲を作る」といったものがあるそうです。意外としっかりお金のことも考えているんですね。これはバウアー先生の著作の、ほんの一部の内容だそうで、詳しく知りたい方は翻訳買ってね! というお話でした。この他にも、モーツァルト研究のちょっとした裏話なんかも聞けて、楽しい内容の講演でした。

モーツァルト:交響曲第38番~41番 モーツァルト:交響曲第38番~41番
アーノンクール(ニコラウス),モーツァルト,ヨーロッパ室内管弦楽団

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