フォーシェ 交響曲 変ロ長調:時代遅れの歌になりたい

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時の逝く


フォーシェ 交響曲 変ロ長調


音楽との出会いはタイミングが重要で、10代の頃に音楽の好みは作られるなんて話もあるし、「もっと早く出会ってたらハマってたなあ」や「昔はわからなかったけど今聴くといい」というのは、クラシックだけでなくどんなジャンルの音楽でもよくあることだ。
青春時代や老後など個人史的なレベルでもそうだし、社会の状況だって影響するだろう。ということで、今、2020年前半、世界的に情勢不安真っ只中である今こそ聴いてほしい、ばい菌もウイルスも消毒済みで毒気ゼロのクリーンな音楽を紹介したい。フランスの作曲家ポール・フォーシェ(1881-1937)の交響曲 変ロ長調である。
管弦楽ではなく吹奏楽編成の曲で、古参の吹奏楽ファンなら知らない人はいない、普通の音楽ファンでは知る人もいない、という作曲家ではないだろうか。パリ音楽院では和声の教授を務めたそうだ。宗教曲なども多く残したそうだが、僕はこの曲以外に演奏されるのを聴いたこともない。
もともとはパリのギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のために作曲し、1926年にビュッフェ・クランポン社から出版され、アメリカのバンド関係者が演奏するために楽章ごとに編曲して再出版。長くそのアメリカ版が用いられ、日本でも1960年に大阪市音楽団が初演。60~80年代には吹奏楽コンクールの自由曲としても取り上げられた。
というか、コンクールで抜粋してやる以外にはあまり演奏されていなかったようだ。何しろ4楽章の古典的な交響曲で30分近い演奏時間がかかり、吹奏楽の演奏会で全曲取り上げられる機会は少なかっただろう。95年に大阪市音楽団が、2003年に昭和ウインド・シンフォニーが全曲録音をしている。
2011年には、フランス国家警察吹奏楽団が、ギャルドのライブラリーにあった楽譜に基づく原典版(1926年版)で録音を行った。当時のギャルド向けの編成版に直したら現代のギャルドの編成では演奏できず他の団体が録音することになるという、このグダグダなあたりが実にフランスらしい。


クリーンなんて言ったが、吹奏楽のための交響曲という、クラシック音楽史上ではそこそこ新しいジャンルの、しかも割と草創期に生まれた作品にもかかわらず、相当古典的アプローチで書かれている。だからとっても聴きやすいし、ともすれば現代人の耳には物足りないかもしれない。
なにしろ1926年のフランスといったら、ラヴェルはもう晩年だし、ミヨーは「世界の創造」を書いているし、オネゲルだって既に「夏の牧歌」や「パシフィック231」を世に送り出している。音楽史の裏表で言えばオモテで燦然と輝く彼らと比べたら、日陰にひっそり咲く音楽がフォーシェの交響曲である。
1楽章は序曲、これからブルックナーのごとく長大な交響曲が始まりますと言わんばかりの幕開けだが、やはりそれがいい。なんというスケール感。ああ、管弦楽で聴きたい……なんて、こういうことを言うのはやめましょう。楽章の終わりも大スケール。管楽器だけの無駄な厚みにリリカルなメロディ、シンバルとバスドラム、スネアドラムが厚みを加える。ダメ押しの一撃で変ロ音をドーン。
2楽章ノクターン、冒頭はクラリネットが朗々と歌う。ボウッと広がる音、少し恐ろしさを感じるし、どことなく日本の民謡のような雰囲気もある。アメリカ版ではここはホルンが吹くことになっている。
3楽章スケルツォ、ABAで実に快い、クラシック音楽の一般的イメージを損なわないストレートな音楽。フランクよりもっと古い、初期ロマン派、メンデルスゾーンや、もはやシューベルトの交響曲さえ彷彿とさせる優しい旋律。また気取らないリズムや、トリオでは程よく凝った和音が楽しい。
4楽章フィナーレ、そろそろお気づきだろうが、各楽章の属性も、もうド定番過ぎて恥ずかしくなってしまうかもしれない。おいおいなんだよ序曲、ノクターン、スケルツォ、フィナーレって……わざとらしいのはちょっと、という方も、心を無にして音を身体に取り込んで欲しい。想像通りのものが出てくる。安心して欲しい。木管がバタ足のように細かく動き回ったり、金管はファンファーレも聴かすし、妙にドラマチックになってチャイコフスキーの交響曲顔負けのフィナーレも描いてくれる。


1926年の音楽としては、フォーシェの交響曲は第三共和政全盛期の音楽、つまりフランクやショーソン、ダンディと同じ音楽性であり、既に時代遅れであった。今聴いても、やはり古臭い。しかし、そんなベル・エポックの香りにむせ返るときもあれば、心癒されるときもある。どうも心がささくれ立つようなときは、この音楽を聴いて欲しい。時代遅れではあるが、一周回って出番がやってきたような。辛い時代の今こそ、素朴ながら味のあるこの交響曲を多くの人に聴いて欲しいし、どんどん演奏されて欲しい。ああ、その前に、一刻も早く普通に演奏会ができる世の中になることを祈らないとね。

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Author: funapee(Twitter)
都内在住のクラシック・ファンです。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、つまりひたすら聴くだけ。演奏することにはほぼ興味・情熱はありませんが、それでもときどきピアノを弾いたり、バンドでドラムを叩いたりシンセサイザーを演奏したり、あるいは作曲・編曲をしたりします。more

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