ヴォーン=ウィリアムズ 3つの夜想曲:ラヴェル、ホイットマン、天と地と海

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ヴォーン=ウィリアムズ 3つの夜想曲

「3つの夜想曲」と聞くとまるでドビュッシーの管弦楽作品のようだが、ヴォーン=ウィリアムズの歌曲の話だ。ちなみにヴォーン=ウィリアムズには「4つの最後の歌」というR・シュトラウスと同じ名前の曲もある。この曲は日本語のWikipediaにもやたら詳しい記述があるので、興味のある方は見てみてください。
ところで、僕は昨年、「日本モーリス・ラヴェル友の会」さんがTwitterで出した「ラヴェルの作曲の弟子は4人だけと言われています。さて誰でしょう?」というクイズで、見事正解してしまい、普段アホなのに実は博識なことがバレちゃったらどうしようと、ちょっとドキドキしていたのだが、誰からもそんな風に言われず胸をなでおろしたところだ。なおこの4人の作曲家が正解で、ヴォーン=ウィリアムズも含まれている。

ラヴェルの弟子、と言っても、実質レッスンを受けた期間は3ヶ月ほど。オーケストレーションに自信がなかったヴォーン=ウィリアムズは、エルガーやダンディ、ディーリアスから学ぼうと考えたが実現せず、評論家カルヴォコレッシから紹介されたラヴェルのレッスンを受けることになる。なおラヴェルはヴォーン=ウィリアムズの3つ年下である。
1907年12月から3ヶ月、実際の日数にしたらもっと短かかっただろうが、パリでのラヴェルのレッスンはヴォーン=ウィリアムズの作風にも大きく影響した。ラヴェルはヴォーン=ウィリアムズのことを「自らの弟子の中で唯一ラヴェル風の音楽を書かなかった人物」と評しているし、ヴォーン=ウィリアムズは「ラヴェルのおかげで重いゲルマン的、対位法的な様式から脱却できた」と書いている。弦楽四重奏曲第1番などにはラヴェルの影響が見られる。


弦楽四重奏曲第1番が1908年のいつ作曲されたかは不明だが、今回取り上げる「3つの夜想曲」の第2番については、手稿に「1908年1月11日」とあり、まさにラヴェルに学び始めた頃である。推測の域を出ないが、ラヴェルとヴォーン=ウィリアムズが検討・議論した唯一の曲かもしれない。なお第1番と第3番は共に1908年8月18日と記されている。
そういう推測もまたロマンがあるが、この曲は実は21世紀に入ってから発見、録音されたもので、そこに至る経緯も興味深い。1908年、ヴォーン=ウィリアムズは「バリトン、小合唱団とオーケストラのための3つの夜想曲」という作品を構想していた。詩は彼のお気に入りのウォルト・ホイットマンのもの。作曲家の未亡人によって未完の手稿(第1番と第3番)が大英図書館に寄贈され、あまり顧みられることはなかったが、先に挙げた1908年1月11日付けの手稿が世に出てからは大騒ぎ(一部界隈で)。
発見は2000年。後にディーリアス協会の会長を務めるマーティン・リー・ブラウンが、彼の祖父であり、ヴォーン=ウィリアムスと同時代に活躍したバリトン歌手、フレデリック・オースティンの書類の中に夜想曲第2番のスコアを発見した。おそらくヴォーン=ウィリアムズが、意見を求めたのか歌って欲しかったのか、彼に渡したものなのだろう。
この第2番のみが、2001年のグロスターの三聖堂合唱祭で初演され、2003年にはロードリック・ウィリアムズ(Br)、リチャード・ヒコックス指揮ロンドン響によって録音され、CHANDOSからリリースされた(↓)。

ここまでは興奮のうちに即なされたという感じだが、「3つの夜想曲」を完成させるというアイデアには至らなかったようで、2014年になってついに作曲家アンソニー・ペインに補筆完成の依頼が入る。ペインはエルガーの未完の作品である交響曲第3番をペイン版として完成させたことで有名な、英国音楽界の偉大なる修理人である。ということで、このページの一番上で紹介している音盤は、第1番と第3番はペインがオーケストレーションを施したものだ。
ペインは当時、プロムスのためのメモリアル作品を委嘱されて非常に忙しかったそうだが、夜想曲の手稿を見てすぐに虜になったと語っている。

3曲ともウォルト・ホイットマンの詩。ヴォーン=ウィリアムズは「海の交響曲」(1925)でもホイットマンの詩を用いたことで有名だが、この初期の音楽でもそれを予見できるだろう。さらには、田園交響曲のような世界も垣間見える。ということで、ヴォーン=ウィリアムズの交響曲のファンにもオススメしたい。歌詞はこちら
第1番“Smile O Voluptuous Cool-Breath’d Earth”、ホイットマンの“Song of Myself”の第21節から取られている。最後の一文以外、文末全てに「!」が付いているだけあって、明るく豊かな、どこか神秘的ですらある楽想が繰り広げられる。高音から始まる歌の旋律も美しい。
打って変わって第2番“Whispers of Heavenly Death”は、いわば緩徐楽章。好きな方はラヴェルのオーケストレーションを思い出しながら聴いてみると面白いかもしれない。弦楽合奏と、時折現れるソロ楽器のバランス、軽さ、しなやかさ……どうだろうか。詩については、これはヴォーン=ウィリアムズの後の作品である「3つのウォルト・ホイットマンの詩」でも第1曲「夜想曲」として用いられている。こちらはピアノ伴奏とバリトンのための歌曲で、似たような趣きもあるが、やはりこの曲は詩の内容のスケールを考えても、オーケストラ伴奏はさすが、とても良い。とにかく凄みに差があり過ぎる。
第3番“Out of the Rolling Ocean”、なぜここで切っているのか知らないが、CDにはそう表記してある。Out of the Rolling Ocean the Crowd、というやつである。初期作品であり、しかも8分ほどの短い曲だが、ヴォーン=ウィリアムズの歌曲とオーケストラの魅力が溢れ出ている。補筆とは言え、この美しさには言葉もない。じっくりと詩の世界に浸りたい。
天と地と、そして海。音楽は美しい曲線を描くように、ホイットマンの世界に色彩を持たせる。これはラヴェルの影響もあったろうが、ラヴェルに「ラヴェル風ではない」と言わせるだけの音楽性もまた見出だせるだろう、確実に。


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Author: funapee(Twitter)
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