ハイドン:弦楽四重奏曲第77番「皇帝」/ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」


ウィーンの香り芳しい音色が魅力の、ウィーン弦楽四重奏団。彼らが創設50周年ということで、またこれが最後の日本ツアーという触れ込みもあり、何が何でも行かなくてはとチケットを取った次第です。4年前に初めて彼らのコンサートに行ったときは(そのときの記事はこちら)、あまりの素晴らしさに心から感激しました。最後の来日公演というのはリーダーのヒンクの意向だそうですが、わざわざそのように公言するのはきっと意味があるのだろうとも思い、あのときの感動を再びという気持ちと、ヒンクの真意を耳で確かめたいという気持ちで、雨の降る夜、紀尾井ホールへ。


【ウィーン弦楽四重奏団 創設50周年記念公演 最後の日本ツアー】(2014年11月20日、紀尾井ホール)
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458「狩」
モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478
シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調「死と乙女」D.810
アンコール モーツァルト:弦楽四重奏曲第19番「不協和音」第2楽章
ウィーン弦楽四重奏団
遠山慶子(ピアノ)


モーツァルトの「狩」とシューベルトの「死と乙女」は、4年前のコンサートでも聴いた演目で、どちらも彼らにとってはライフワークと言っても過言ではない曲ではないでしょうか。1992年に「死と乙女」の録音で音楽之友社主催のレコード・アカデミー賞のベスト室内楽に選ばれたこともありますし、僕も数多くのカルテットによる「死と乙女」の録音を聴いていますが、やはり彼らの演奏は他のものとは一線を画する名演だと思っています。まずは1曲目の「狩」、日本ツアー初日の1曲目ということもあってか、精彩を欠く場面もありましたが、あの絹衣のような滑らかで艶のある音色は以前にも増して美しく輝いていました。ピアノカルテットの終楽章くらいになるとかなり演奏もかなり乗ってきて、本領発揮というところでしょう。鳥肌モノでした。


「死と乙女」は音楽が豊かに展開する、聴いていて本当に飽きない名曲です。ですが、聴くに耐えうる演奏かどうかというのは重要なところで、つまりとことん冷たく演奏されてしまうと聴いていて苦しいですし、あまり温もりがあり過ぎても詰まらない演奏になり、弦楽四重奏団の楽曲解釈やテクニック次第ということになります。その辺りのバランスが、土地柄と伝統に育まれた柔和な音色と、研鑽を重ねて鍛えぬかれた鋭い音色と、両方が程よく整えられているのが、ウィーン弦楽四重奏団の「死と乙女」の魅力なのではないでしょうか。もちろん、もっと切れ味のある音や重みのある音で演奏するカルテットはありますし、甘美極まる音色の演奏も知っていますが、この音色、このバランス感覚は、彼らでなければ聴けないのです。ライブでは一音一音、入魂の響きを、空気もろとも体感することが出来ます。音楽を聴く幸せとはこのことです。


4年前のコンサートの方が、ミスも少なかったような気がしますが、彼らの特質であるこの得も言われぬ音色は、さらに磨きがかかっていました。ヴィルトゥオーゾ的な面のテクニックは、もうかなり厳しいお年だろうとは思いますし、来日公演にどれほど体力が必要かというのもわかります。今後彼らがどのように活動するのか(あるいはしないのか)、僕にはわかりませんが、彼らのホームはウィーンですし、そこで温かい音楽を奏でていて欲しいと願うばかりです。


このコンサートの翌日にはシュトイデ弦楽四重奏団のコンサートもあったようで、シュトイデさんも聴きにきていました。たまたま開演前にお手洗いに行こうとしたときにすれ違ったのでびっくりしました。つまり、僕がもっと早くお手洗いに行っていたら隣合わせになっていたかもしれない! なんて、下品な話ですいません……。ともあれ、大先輩の演奏は、現役のコンマスにはどのように感じられたのでしょうか。

シューベルト:「死と乙女」&「ロザムンデ シューベルト:「死と乙女」&「ロザムンデ
ウィーン弦楽四重奏団,シューベルト

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