エルガー 子どもの魔法の杖 第1組曲、第2組曲 作品1a、1b
もともとの題材は、エルガーが子どもの頃、兄弟・姉妹たちと一緒に、両親のために演じた劇用に作曲した音楽である。
エルガーは50歳のとき、その幼少の頃の作品に再び目を向け、管弦楽組曲に編曲した。
劇の内容は、子供から魔法の杖をもらった二人の大人(両親)が、妖精の国で遊ぶ、という実にかわいらいしいものだ。
第1組曲は「序曲」「セレナード」「メヌエット」「太陽の踊り」「妖精の笛吹き」「まどろみの情景」「妖精と巨人」
第2組曲は「行進曲」「小さい鐘」「蛾と蝶」「泉の踊り」「飼い馴らした熊」「野生の熊」
で構成されている。
第2組曲の「野生の熊」は、素早い弦の動きと流暢な旋律が演奏効果抜群で、アンコールピースとして愛奏されているが、他の曲はあまり演奏機会に恵まれない。
だがこの作品は、エルガーが子供時代の感性と、晩年のエルガーの卓越した音楽語法とが、非常に心地よい融合を見せた、隠れた名曲でもある。
成熟したエルガーの音楽性が光る「序曲」で幕を開けると、「セレナード」では弦楽とハープに導かれ、かわいらしいクラリネットの旋律が妖精の国へと手招きする。
いかにも古風な「メヌエット」で大人が登場すると、元気いっぱいな「太陽の踊り」、うって変ってゆっくりと美しい「妖精の笛吹き」が「まどろみの情景」を誘う。
「妖精と巨人」では、動き回る低音群の巨人と高音群の妖精の対比と融合が面白い。
「行進曲」は短調で厳粛な雰囲気を持ち、エルガーの高貴な楽風を感じる。どうやら劇は終わるようである。
だがノスタルジーは続き、目まぐるしく動く木管に、グロッケンシュピールとチャイムが活躍する「小さい鐘」、これもエルガーらしい優しくて品格ある趣きの「蛾と蝶」、ヴァイオリンの分奏旋律が魅力的な「泉の踊り」。
古典的舞曲のような「飼い馴らされた熊」、それと対照的な「野生の熊」で、華麗にクライマックス。
現実の生活に疲れたときは、妖精の国へ遊びに赴いてはいかがだろうか。
ノスタルジックで優しい音楽に浸るのは、すさんだ心を癒してくれること間違いない。
Wand of Youth Suites / Nursery Suite / Dream Child Edward Elgar,Bryden Thomson,Norman Del Mar,Ulster Orchestra,Bournemouth Sinfonietta Chandos |
都内在住のクラシック音楽ファンです。コーヒーとお酒が好きな二児の父。趣味は音源収集とコンサートに行くこと、ときどきピアノ、シンセサイザー、ドラム演奏、作曲・編曲など。詳しくは→more