ラヴェル 組曲「クープランの墓」:親愛なるフランス

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ラヴェル:ピアノ名曲集 1

ラヴェル 組曲「クープランの墓」


日本人の耳にとってこの曲の響きは「フランス音楽の標準」のようなものかもしれない。
この曲をきっかけとしてフランスの響きに魅了されたという人も多いのではないか。
それは原曲のピアノ版でも、オーケストラ編曲でも同様に感じる。
ラヴェルがピアノのための組曲の作曲に取り掛かったのが1914年、第一次世界大戦の影響を大きく受けることとなった作品だ。
フランス・バロックの巨匠フランソワ・クープランを偲んで、やや擬古典的なバロック音楽讃・クラヴサン音楽讃の作品として作曲をしていたが、大戦勃発の影響でラヴェルは野戦病院勤めを志願する。
愛国心の強さが窺えるエピソードだが、ここで作曲は中断してしまう。病気で戦争から離れ、再び市民生活に復帰すると、ラヴェルはこの作品を、戦争で失った仲間たちへの追悼の曲とすることを目指すのであった。
「前奏曲」、「フーガ」、「フォルラーヌ」、「リゴドン」、「メヌエット」、「トッカータ」の6曲それぞれに、友人たちの名を記して、1919年にピアノ組曲が発表された。
個人への追悼曲(トンボー, Tombeau)というのはバロックの伝統であり、クープランの墓(原題 Tombeau de Couperin)という翻訳は少々語弊があるかもしれない。もちろんトンボーは墓という意味もあるのだけれど。
オーケストラ編曲も自身の手によってなされ、こちらは「前奏曲」、「フォルラーヌ」、「メヌエット」、「リゴドン」の4曲構成である。舞曲中心なのは、それこそバロック風の組曲を思わせる。
これはラヴェルなりのクープランへの讃歌であり、フランス・バロックへの讃歌であり、そして何よりフランスのために戦死した友人たちへの讃歌でもあるのだ。


非常に人気のある曲だし、僕も好きな曲の一つである。
傑作には間違いないのだろうが、この曲をいわゆるラヴェルの芸術として最高傑作として挙げられるのかという事については、ちょっとあやしい。
自分の好きな曲と、名曲・傑作というのはまた別の問題である。駄作と言われようが好きなものは好きだし、名曲でも大して好きじゃない曲があったっていいだろう。
クラヴサン・チックな装飾音が印象的な「前奏曲」、大胆さと優美さがオケ編で聴くと尚楽しい「リゴドン」、そして圧巻のピアノ・テクニックで魅せる「トッカータ」、僕の特に好きな曲・版はこれらである。もしオケ編しか聴いたことがないという人がいたら、このトッカータだけでもぜひ聴いてほしい。
どれも素晴らしいのだが、何が引っ掛かるのかというと、どの曲も魂を揺さぶるような感じがしないのだ。他のラヴェルの作品で何度も魂を揺さぶられているにもかかわらず!
それはなぜか?ラヴェルのピアノ作品の集大成などとも呼ばれるほどの作品で?
はっきりはわからないが、自分なりに考えるところがなくもない。
この曲は軽いのか重いのかわからない。クープランへの愛、バロックへの讃歌、愛国心、友人への追悼……宮廷で「では一曲」と楽しむ音楽として聴くような気持ちでいると少し気味が悪いし、ぐっと構えて聴くとあっけない。
これはラヴェルの、愛する国、愛する音楽、愛する友人たちへの個人的な手紙のようなもので、なんだか部外者の僕なんかが見てはいけなかったものなんじゃないかって思えてくる。
そう、だからこそ僕たちは、この作品から、めいっぱいの、それこそ「フランス音楽の標準」とさえ受け取れるほどのフランスの響きを感じるのではないだろうか。
フランスの音楽に敬意を払い、愛国心を持って演奏する音楽家たちの演奏を聴き、そんなことを思うのである。

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